42 王子の願い

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 顔を上げたピアは笑みを浮かべ、可笑しそうに肩を揺らしていた。 「側仕えだったときは知りませんでした。あなたがこんなに子供っぽい方だったなんて」 「あ……」  ロゼルトは頬を赤らめる。 「君から眩しそうに見られるのが嬉しくて、前はけっこう背伸びしてたかも……」  さすがわたしの王女さま!と輝くハシバミ色の瞳が見たくて、常に努力を怠らず、結果として多くのことをこなせるようになった。 「同い年なのに、まるでお姉さまのようでしたよね。美しくて、聡明で、思慮深い王女さまは、ずっとわたしの憧れでした」  いくつもの光の粒が瞬く夜空を、ピアはゆったりと仰ぐ。 「一番大きく輝いているあの星みたいにとてもまばゆくて、まるで手の届かないところにいらっしゃるようでもありました……」  ピアは視線を下げ、星灯りが降りそそぐ噴水の水面(みなも)に指先でそっと触れた。 「変わっていないところもありますが、今のあなたは、感情的で、浅はかで、不器用で……」  ロゼルトは恥じ入ったように肩をすぼめる。 「わたしは怒っているはずなのに、妙に気にかかったり、心配でハラハラしたり、つい庇いたくなったり。……ある意味、以前よりも身近に感じます」  少しはにかんだような表情で、ピアはロゼルトを見上げた。 「近くにいらっしゃらないとなんだか寂しいので、もう少し修行の期間を縮めることはできませんか……?」  信じられないことを聞いたかのように、ロゼルトは目を大きく見開く。 「ち……縮められるよ! 縮める! 絶対に縮めますっ!」  力強くロゼルトは叫んだ。 「いっそ、三年を三日にしたっていい!」  ピアは愉快そうに訊ねる。 「そんなので修行になるんですか?」 「なるさ! おばあさまとは半日一緒にいるだけで、雪中訓練三回分くらいの負荷がかかるんだから!」  くすくすと笑うピアを、ロゼルトは幸せそうに眺めた。 「……ピア、ずっとそんなふうに笑ってて」  一番の願いを口にして、ロゼルトは優しく目元を和ませる。  その瞬間、ピアは小さく息を呑み、まるでいま初めて彼と出会ったかのような驚きと戸惑いを浮かべて頬を薄く染めた。 『今日会った人の瞳の奥に、永久(とわ)に輝く星を見つけるかも知れない』  いつかのフォルタの言葉が、どこかから聴こえてきたような気がする。 ――あの夜の包み込むような笑顔にときめいたのだとピアが打ち明けたのは、短めながらも過酷な修行をやり遂げて帰ってきたロゼルトから正式に求婚されたときだった。              <おしまい>
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