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1 王女さま、大変ですっ!
のどかな午後だった。
ジェラーレ王国の美しき王女ロゼルタは、自室の窓辺にしつらえられた席に着き、ひとりでおやつの時間を楽しんでいた。
目に映る木々の葉は若々しいみどり。小鳥たちはかわいらしい声でさえずり、青い空には綿花のような雲がふわり。
誕生月の爽やかな空気を胸いっぱいに吸い込み、ロゼルタは口元に笑みを浮かべた。
王女は間もなく十九歳になる。
開け放した窓から入ってきたそよ風が長い金髪をかすかに揺らすと、ロゼルタは毛先をつまみ、嬉しそうに藍色の瞳をきらめかせた。
「バッサリいくんだ」
絡まれば痛いし、夏になると暑い。
側仕えのピアが丹念に手入れしてくれているお陰で絹糸のようにつややかだが、これだけ長いと洗うのも乾かすのも大変そうだ。
「ピアにはずいぶん面倒かけたなあ……」
感慨深げに呟いたロゼルタは、ふと何かに気づいたようにあたりを見回した。
そういえば、さっきからピアの気配がない。
「ピアー?」
座ったまま隣接する側仕えの部屋の扉に向かって声を掛けてみたが、返事はなかった。
「いないのー?」
王女は不思議そうに首をかしげる。
「どこに行ったんだろ……」
そのとき何の前触れもなく、廊下側の大きな扉が勢いよく開いた。
「ロゼルタさまっ……!」
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