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逆転
【お腹が空いた】上の句。
これは、【腹が減った】では無く【原が減った】。
【後は残り物で我慢してくれ】下の句。
この文で重要なのは、【残り物】の部分。
これは、【残り物】では無く【残った者】。
つまりこの連絡網で伝えられた内容は、
【お腹が空いた、後は残り物で我慢してくれ。】
では無く。
【原が減った、後は残った者で我慢してくれ。】
なのだ。
ひょっとしたら、最後の【我慢してくれ】も【頑張ってくれ】かもしれない。
僕の推論を聞いた彼女は、目を見開いたまま何も言わないず固まったままだ。
「知ってる者、知らない者で分かれたのは、文章が途中で意味を変えたからなんだ。」と推理を補足する。
「じゃあ、私が……。」
「いや、たぶん違う。思うに、委員長へ廻ってきた時には既に【下の句】が変わった後だと思う。だから、委員長は文章の意味には疑問をいだかなかったんだろう。その証拠に、一つ前の近藤も知らなかった。」
とは言ったものの責任感の強い彼女の事だ、きっと心底後悔しているのだろう。
「でも本田君……それが分かったからって。」
「うん。それなんだけどさぁ。___。」
_______。
「これが今回起こった事件の原因であり全容だ。」
今いるメンバー全員を集め僕の推理を披露した。
皆納得してくれた様に見えた。特に前半3人と委員長はバツが悪そうな表情をしていた。
「で…でもよ、本田。これが分かったからって何になるんだよ。事態は何も変わらないじゃん。」と言う相沢に、僕は『待ってました!』と言わんばかりに畳み掛ける。
「そこでだ。僕から一つ提案があるんだ。」
たじろいでしまいそうな、ビリビリとした視線が僕に向けられるがここが正念場だ。
深く息を吸った。
「皆聞いてくれ。この信じられない様な言い間違いの連鎖。口伝で伝えるからこそ起こった問題。それに気付いた僕は、不覚にも面白いと思ってしまった。」
皆は黙って僕の話を聞いてくれている。
「どうだろう。いっそ、既に成立しない寸劇を辞め、これを今回のレクリエーションにしてしまうのは。」
ざわざわ。
「僕たちで題材を提案する。そしてチームを作り、口伝……もしくはフリップに絵なんかでも良い。それを連絡網の様に繋いで行くんだ。案外面白い事になるんじゃないか。」
どうだ……。
皆の反応が怖くて僕は途中から視線を背けてしまった。
「………。」
「そ、それ良いんじゃんっ!」と坂井が、「案外盛り上がるんじゃね?」相沢も続く。
良かった。
僕の心配は杞憂で、皆快く賛同しくれたのだ。
「でもよー。ゲームなんだから名前付けた方が良いんじゃね?」と坂井が言うと、一度離れた視線がまた僕に集まった。
「そうだな。……【伝言ゲーム】なんてどうだろうか。」
「ははっ、単純かよ。」「ふふ、安直ね。」
____。
時刻は12時半を回っていた。
「とまぁ、こんな事が俺の中学時代にあったんだ。笑えるだろ?」
少し夢中に語り過ぎただろうか。岩橋を見ると、目はウトウトと実に眠たそうにしていた。
「すまんな。長く喋り過ぎた。」
「い、いえ。勉強になりました。」少し寝ぼけているように見える。
ズズズ。残った飲み物を飲み干す。
「本田課長。」
「ん、どうした?」
「僕ら、そもそも何の話をしてたんでしたっけ?」
「んー。何だったかな。」
「何でしたっけ。」
「ははは、忘れちまったよ。」
「でも、とりあえず腹が減ったな。」
「ははっ。そうですね。」
おわり。
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