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連絡網
本田 正道。成瀬中学校三年、当時15歳。
本田は緊張していた。
中学校最後の課外授業が明後日の月曜日に迫っていたからだ。
近くの小学校へ出向きレクリエーションを実施するというもので、本田たちのグループは童話をベースにしたオリジナルの寸劇を披露する事になっていた。
グループは8人。本田はそのリーダーを務めていた。少ないキャストだったけど、皆それぞれしっかりと役割が割り振られ、脇役の出ない構成に仕上げられていた。
案を出し合っただけあり、内容には自信がある。
脚本を考える際は、メンバーでクラス委員長の斉藤 由香里から何度もダメ出しをくらったものだ。
彼女は、「小学生たちに、誤った表現を伝える訳にはいかない。」と言い回しや言葉の正しさにうるさかった。
何度も脚本を修正させられたが、そのおかげでそれなりのモノが出来たと思う。
「まぁ、最後にもう少し練習しておくか。」
今日は土曜日で、家族も出かけている。声を出して自主練するにはもってこいだ。
「可愛いお嬢さん、りんごはいか__。」
プルプルプル。
プルプルプル。
電話だ。
せっかく良いところだったのに……。もし、何かの勧誘だったら、少し怒鳴ってやる。
プルプルプル。
「はい、はい、今出ますよ。」
ガチャ。
「はい。本田です。」
「あのー。正道君は居ますか?」
名乗らないとは良い度胸だ。
「俺だけど。」
「えっ。正道か!?俺だよ、坂井だよっ!」
「ああ。坂井か、お前電話だとなんか雰囲気違うのな。」と少し、からかってみせる。
「うるせぇ。」
電話の向こうで坂井の拗ねた表情が想像出来て笑える。
「で、どうしたんだよ?遊びの誘いか?」
「いや、そうじゃない。連絡網が廻ってきたんだ。」
「連絡網?」
学校などで何か緊急の連絡をする時に、各家庭が決まった順番に情報を伝えるアレか。
たしか、出席番号順だったハズだ。
「なんで、俺の前が坂井なんだよ。たしか、もっと何人か居たはずだろ。まさかお前、テキトーに電話してるんじゃないだろうな。」
坂井は、根は良い奴だがけっこうテキトーなところがある。
「いや、いや。最後まで聞けって、課外授業のグループ内だけらしいんだよ。」
あ、なるほど。それなら確かに、俺の前は坂井で違い無い。疑って申し訳ない事をした。
「で、何んなんだ?その連絡とやらは。」
「………それがな。」
「ああ。」
「【お腹が空いた、後は残り物で我慢してくれ。】だそうだ。」
「は?」
「いや、俺もよく分からないんだ。ただ、これを伝えてくれって……。」
意味が分からない。
坂井の前となると……。さ、さい、斉藤 由香里。委員長か。
「委員長は他には何か言ってなかったのか?」
「え、いや。それだけだよ。でも委員長も『意味が分からないわ、単なるイタズラかもしれない。でもいちよう伝えたわよ。』って言ってた。」
委員長も分からないのか……。
「俺もいちよう伝えたからなっ。そんじゃなー。」
「あっ、おい、ま__。」
ガチャン。ツーツーツー。
【お腹が空いた、後は残り物で我慢してくれ。】
なんだこれは。
そもそも、文章がおかしくないか?
お腹が空いたのなら又はであれば、なら何となく意味は通るがお腹が空いただけでは文章としておかしいだろう。
俺は受話器を耳に付けたまま、眉間にシワを寄せる。
結局。考えるだけ無駄で何か意味がある様には思えなかった。委員長の言うように、きっとイタズラなのだと結論付ける事にした。
「全く、たちの悪いイタズラだよ。」
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