ひらめき

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ひらめき

それにしてもマズイ。 「原のところだけカットすればどう?」と相沢が提案する。 しかし僕らの考えた寸劇は、作りになっているため、一人抜けるだけで物語が成立しないのだ。そもそも欠員が出ることなんて想定していなかった。 「却下だ。物語が成り立たなくなる。」 「代役をたてるのはどう?」委員長が言う。 代役…?。 「いや、ダメだろう。候補も居なければセリフや動きを合わせる時間も無い。」 「…………。」 「………。」 「……。」 無言の時間は、いっそうに空気を重くする。 皆、事態の打開策を探るように黙り込んでしまった。 真剣に考えてくれている。 なのに。 なのに………実のところ、僕は既に諦めてしまっている。申し訳ないとも思う。 しかし、考えたところでどうしょうもない事もある。どうしょうもないのだ。 「はぁ……。」自然と溜め息が出ていた。 【お腹が空いた、後は残り物で我慢してくれ。】、全てコレから始まった。 何なんだよ。ホントに……。 (くだん)の連絡網に、今更になって怒りが湧いてきた。そんな時だった。 「あ〜。腹減ったぁ。」 坂井の気の抜けた声が聞こえた。 僕はすかさず、「だらしのない声を出すな」と声を荒げてしまった。 これは、完全に八つ当たりだと自分でも分かっている。 しかし坂井は「だって、朝メシ食う時間無かったんだよー。」とあっけらかんとした態度だ。 「良くこんな状況で腹が減るな。」……自分声が頭の中をこだまする感覚だった。 「腹が…減る。お腹が減る……。」 【お腹が空いた、後は残り物で我慢してくれ。】、これが何を伝えようしていたのか、分かりそうな感覚がした。 今は、この状況を打開する方法を最優先すべきだと分かっているが、なぜだろう。 『この感覚を優先させろ』と本能が告げているような不思議な気持ちだった。 いや。これは、せめてもの意地だったのかもしれない。 【お腹が空いた】を上の句。 【後は残り物で我慢してくれ】を下の句としよう。 連絡網……出席番号順……委員長……。 そして、伝わっている者。いない者。 「…うん………分かった。しかもこれは……。これなら。」 でも、確証を得るには一つ確認しなければいけない事がある。僕の考えが正しければ……。 委員長を手招きして、集団の輪から呼び寄せた。 彼女は、「何かいい案が……」と言いたげな期待を寄せる表情だ。 「委員長、連絡網の事の一つ確認したいのだけど。」 「今更、そんなのどうでも良いじゃない。」 至極真っ当な意見だ。 しかし、それでもだ。 「分かってる。でも、この状況を何とか出来るかもしれないんだ。」 委員長は、不満そうな表情だったが無言で頷く。 「委員長、伝えられた連絡網なんだけどね___。で間違い無いかい?」僕と委員長に相違が無いかの確認。 「ええ。内容で間違い無いわ。」 ……。 「委員長。」 「何よ。」 「本当は、【お腹が空いた】では無く【腹が減った】って近藤君から連絡が来たんじゃないかい?」 「あ、えぇ。そうだけど、別に意味は一緒じゃない。それに、【腹が減った】では、言葉遣いが良くないわ。」 やっぱり…。 つまり。 つまりこれは、複数の言い間違いが招いた事故だ。 「これから僕の考えを話す。たぶんこれが事の全容だと思う。」
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