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19.シエラの報復
以前に城の周辺を案内してもらった時のように、ガルと一緒に飛竜に乗りながら、私たちは王宮に向かっていた。
暗雲の立ち込める中、二頭の飛竜が連れ立って飛んでいる。
オスのグラスには私とガルが、そしてメスのライムにはキールさんが乗っている。
てっきりキールさんは自分の翼で飛ぶのかと思ったら、彼ら有翼人は長距離の飛行は得意ではないらしい。
たぶん、私たちが長距離をずっと走り続けるのが難しいのと同じようなことだと思う。
飛竜が城に近づくと、こちらに気づいた兵士たちが続々と集まってきた。
城壁には弓でこちらを射ようと構えている兵士の姿もある。
「さて……せっかくだから派手にやらせてもらおうか! 先にケンカを売ってきたのはそっちだからな。悪く思うなよ!」
ガルは片手を上げて、手の中に力を溜め込むような仕草をした。
バチバチ音を立てて彼の腕に魔力が集まっていく。
その腕を、城の上部に向かって思いっきり振り下ろすと、そこから光り輝く衝撃波が放たれ、大きな爆発音と共に城の屋根が吹き飛んだ。
部屋の中は爆風で壁がひび割れて、窓ガラスが粉々になっている。
「すごい……」
――信じられない。魔法の詠唱も無しに、腕を振り下ろしただけでこんな威力の爆発が起きるなんて。
これが魔王ガルトマーシュの力なの……?
兵士たちは圧倒的な力の差を見せ付けられ、すっかり戦意を喪失して武器を放り投げてその場にへたりこんだ。
確かにどう考えてもガルの力は規格外で、ただの兵士がどうこうできるようなものでは無い。
「よし入口が広くなった。これでグラスとライムも一緒に城に入れるな。キール、国王に面会するぞ」
「畏まりました」
私たちは屋根が無くなってしまった広間に上空から降り立った。
ちょうどその広間には、国王が玉座に座っていて、その傍らにはエドワード王子、そして聖女マリアンヌの姿がある。
王子とマリアンヌは突然の出来事に腰を抜かしていた。
「ひぃぃぃぃ、魔王が来た! マ、マリアンヌ! 今こそ聖女の力で魔王を封印してくれ!」
エドワード王子が這いつくばってマリアンヌの影に隠れながら、必死で訴える。
しかし、彼女の口から出てきたのは意外な言葉だった。
「……は? そんなのできるわけないでしょ! 私は聖女じゃないんだから!」
「なに⁉ でも教会がマリアンヌこそ聖女だと――」
「ふん! そんなの全部でっちあげに決まってるでしょ! 教会は信仰を集めるために私を聖女に仕立て上げただけよ」
「マリアンヌ、僕を騙していたのか⁉」
「だったら何? 私はおとなしく言うことを聞いていれば王妃になれるって教会に言われたから承諾しただけよ! 私は無関係だからアンタが何とかしなさい! このボンクラ王子!!」
マリアンヌは以前に会った時の清楚さからは考えられないくらい下品な声でわめき散らし、王と王子を見捨てて逃げて行った。
――まさか彼女が偽物の聖女だったなんて。
「残念だったな。ここに居るシエラが本物の聖女だ」
ガルがそう言って、私に視線を送る。
国王や王子は私の姿を見て、信じられないものを見るかのように目を見開いた。
そりゃあそうでしょうね。
あなた達は、私を追放して亡き者にしたつもりだったんだから。
「シエラ、聞いてくれ! マリアンヌのあの態度を見ただろう? 僕は被害者だ! 教会とマリアンヌに騙されていただけなんだ!」
「被害者ですって……?」
「そうだとも! 僕が本当に愛しているのはシエラだったんだと今気づいたよ! 王国に戻ってきてくれ。やり直そう!」
バカなエドワード王子は、私がどうして魔王と行動を共にしているのかも考えもせず、この場に及んでもまだ都合のいい事を言い始めた。
そんな薄っぺらい言葉で私がどうにかできると思ってるのかしら。あまりにも愚かしい。
ガルも同じように思ったらしく苦虫を噛み潰したかのような顔をして、王子に近寄る。
「貴様、救いようのないバカだな……貴様がシエラに何をしたのかわかっているのか?」
「いや、それは……その、仕方なかった……そう、仕方なかったんだ!」
「まだそんなことを言うのか。どこまでも見下げた奴だ。彼女の心を弄んだ罪、その身をもって償ってもらおう」
「ひっ! 助けてくれ……」
「ガル、止めて!」
「シエラ、こんなやつにまで情けをかけるのか?」
私は殺気立つガルを制して、つかつかと王子の前に歩み寄った。王子は助かった、と言いたげに一瞬ホッとした顔をしたが、すぐに恐怖で顔をゆがめた。
「違うわよ。――これだけは……このボンクラ最低王子だけは、私の手でやらないと気が済まないのよっ!!!!」
私は思いっきり王子の頬を叩いて、全力で股間を蹴り上げ、倒れこんだところをさらに体重をかけて踏んでやった。
同じ男として思うところがあったのか、ヒュッと小さく魔王が息を呑む。
「ぐぉぉぉぉ……ああぁぁぁぁぁぁ…………」
「貴方とやり直すつもりは一切ありません! ごきげんよう!!!!」
王子は白目をむいて気絶している。
国王は玉座に座ったまま、それを見て大きくため息をついた。
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