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三澤さん
バイト上がりにまかないのサンドイッチを頼んだら、見たことない和風のリゾットが出てきた。
「あれ?これ……」
キッチンの三澤さんが、
「今度の新メニューの試作だよ。良かったら味見して」
と言った。
三澤さんは中年の女性で、ちょっと無口でとっつきにくい。
「ありがとうございます。いただきます」
まあまあ量があったので、全部食べられるかな…と危ぶんだけど、これがものすごく美味しくて、あっという間に完食した。自分でもびっくりした。
ごちそうさまでした、と皿を下げると、三澤さんが受け取って、お疲れさま、と声をかけてくれた。
久しぶりにたくさん食べたなー、と満腹で家に帰った。
翌日店長に新メニューの話をしたら、
「え?そんな予定はないけど」
と不思議がっていた。
まかないは、今日もサンドイッチを頼んだけど、リゾットが出てきた。
「三澤さん?」
「はい」
「店長に聞いちゃった」
「……バレたか」
ペロっと舌を出したのが意外で、笑ってしまった。
リゾットは、三澤さんがお家で作って持ってきてくれたものだった。やせた私を心配してくれていた。
「何があったか知らないけど、食べないとダメだよ。元気出ないよ」
「……すみません」
「私の娘も食欲が落ちた時、これは食べられたの」
「娘さんいらっしゃるんですね」
「うん。今親元から離れてる。食べてるか心配」
泣きそうになった。
「三澤さんありがとう」
「ゆっくり食べて。また作るから」
泣きながら食べた。
もう、甘えてないでしっかり食べよう。
ちゃんとしなきゃ。
心配してくれる人の存在は、気持ちを強くするのだった。
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