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 家に着くまで、匂い袋のことは気にならなかった。というのも、バスに乗るやいなや席に座ると眠りこけていたからだった。その頃、会社を立ち上げたばかりで、殆ど眠ることなく、突っ走っていた。四十歳の新たなチャレンジだった。さすがに、息切れするようになって束の間の憩いを求めたのだ。  わたしは、その頃、ストレスを感じていたわけではないが、食べることが至福の時間だった。美味しいものを好きなだけ食べる。デザートも大好きだった。だから、少しふくよかで健康な身体つきだったと思う。太っているわけでもなく、痩せているわけでもない。いわゆる標準的な四十代の身体つきだった。おそらく、このときの食生活を続けていたら今頃は、太ったおばさんになっていたかもしれない。年齢とともに、代謝は落ちるというし、もともと、太りやすい体質なのだ。ただ、その頃は食べた量を上回る肉体や脳の酷使のせいで、標準を保っていたに過ぎない。  今にしてみれば、食欲満載のわたしがそれに反する性質になったのは、この匂い袋が原因かもしれないと思うようになった。    家に着き、春物のコートを脱ぎハンガーにかけようとしたとき、ポケットの中から匂い袋がこぼれ落ちた。  おばさんが無理矢理に押しつけたものだったなと、何気にわたしは拾い上げた。知らないおばさんからもらったものは気持ちが悪かったが、確かに冷やかしていた土産物屋にあった匂い袋のようだった。  だから、何気に匂い袋を少し開け、香りを試そうとした。 「良い香り。これはなんの香りかな‥」  香りをもっと確かめようとしたら、すっと意識が遠のき、そのまま倒れてしまったのだった。        続く
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