ダイエットサプリ

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1  ――チャイムが鳴るまで、あと五分……。  さっきから、黒板の斜め上にかかっている時計に何度も目を走らせてしまう。  その下で数学の山本先生が、黒板に書かれたグラフの説明をしている。でも、ちっとも頭に入ってこない。たまに早めに授業を切り上げてくれる先生もいるけど、山本先生はいつもチャイムが鳴るまできっちりと授業をする。  グルル……とおなかの音がしたような気がして焦ったけれど、どうやら隣の席の伊藤くんのおなかの音だったようだ。まったく、まぎらわしい。  ――もっとも、おなかがすいてるのはわたしも同じなんだけど。  明日は我が身、いやいや、一寸先は闇ならぬ一瞬先は我が身だ。次鳴るのはわたしのおなかかもしれない。  説明を終えたらしい山本先生が、持っていたチョークを置いた。そのタイミングを見計らったかのように、授業終了のチャイムが鳴った。 「おなかすいたぁー」  お昼の時間。いつものように、中庭にあるベンチに腰かける。さっそくお弁当をパクつくわたしを見て、隣に座ったりっちゃんが首を傾げた。りっちゃんはまだ箸も出していない。 「美以子、ダイエットはやめたの?」 「えっへへー。今もダイエット中でーす」  ミートボールを頬張る。おいしい。 「そうなの? そのわりに普通に食べてるじゃない。この前までウサギのエサみたいなのばっかり食べてたのに」 「サラダだよ!」 「まあ、野菜ばっかりも身体に悪いもんね。ダイエット方法を変えたの? ジョギングでも始めたとか」 「しないよー、ジョギングなんて。ふっふっふ。わたしには秘密兵器があるのだよ」 「なに、下剤でも飲んでるの? 得意げなところ悪いけど、下剤にはダイエット効果はないよ。やめた方がいいよ」 「違うよ!」  わたしは制服のスカートのポケットから、それを取り出した。ボトル型の、小さなプラスチック容器。怪訝な顔をしたりっちゃんが、眼鏡のフレームを指でなおす。 「なあに、それ?」 「ダイエットサプリってやつ」 「サプリ? どうしたの、そんなの」 「清水先輩にもらったの。先輩のお姉さんが前に飲んでたやつなんだって。わたしがダイエットしてるっていったら、余ってたのくれたんだ」
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