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「絶対に秘密だよ」
いつもは笑顔を絶やさない天音ちゃんが、真剣な顔で僕を見つめた。
小綺麗なマンションの2階。新婚の僕達、大槻拓海と、妻の天音ちゃんの新居。
そこのリビングで、僕と天音ちゃんは向かい合っている。
「……私、天使なの」
「……え?」
「だから、私は、天使なの。前に母がいないって言ったでしょう?あれは天界にいて会えないってことなの」
「は?」
何を言ってるのか分からない。そもそも、子供を作ろうか、と言う話に、なんで、天使の話が出てくるのか。
「拓海くん、結婚する前に子供はそんなに要らないって言ってたのに何で今になって」
天音ちゃんは、長い金髪を揺らしながら僕に詰め寄った。
日本人の名前だけど、金髪碧眼の彼女はとても可愛らしい。出会った頃、ハーフなのかと聞いたことがあったけれど、「そんな感じかなぁ」と濁された事があった。
最近、小さな子供を連れた親子を見て、彼女との子供が欲しいと思うようになって、とうとう今日、「子供が欲しい」と真剣に言ってみたら、彼女も真剣に「天使なの」と返事が返って来たわけだ。
「私も、拓海くんとの子供は欲しいわよ。でも、そうなると、私は子供が大人になったら天界に帰らなきゃいけないの。それでもいい?」
「……信じられない」
僕は天音ちゃんがこんなウソをつく程、子供を作るのが嫌なのかと、下を向く。
「拓海くん……」
僕と天音ちゃんは同時にため息をつく。
「そんなに子供が欲しくないならいいよ」
「そんな事ないよっ!……証拠、見せるよ。それで、子供の事はよく考えようよ」
「証拠?」
僕が顔を上げると、彼女は立ち上がり、目を閉じた。
すると、パァッと天音ちゃんの体が光り、背中に大きな翼が現れた。
「羽根、だ」
「そうよ、これで信じてくれた?」
天音ちゃんはバサバサと翼を揺らせてみせる。
それから、彼女からスゥッと光が消えていくと、翼も消えた。
「……拓海くんの両親にも勿論秘密だよ。誰にも言ったらダメだからね。約束して」
彼女は小指を出して来る。
僕も小指を出して天音ちゃんの小指に絡める。
「う、うん。約束する。でも、何で子供産んだら天界に帰らないといけないの?」
「それは、人間界で過ごせる天使の数が増えすぎたら困るからよ。産んでいいのも2人まで。それも子供も2人作るなら、年を3歳までしか年齢を開けてはいけない。もし、子供を授かったら、天使の書が天界から渡されるらしい。ちゃんとした天使になる為に、大人になるまでに、天使の事を学ばせるのテキストのようなものなんだって。そして、人間界にいる天使はこっそり人間の手助けをするのが仕事なの。私もそうだよ。家でリモートワークしてるでしょ?この辺りの人間の手助けをしているの。今はスマホやパソコン見てる人多いから助かるよ。そう言うところから、その人の助けになるメッセージを送っているの。たまたま見たニュースや、誰かのブログ、本の一節なんかを偶然に見せかけて、その人に読んでもらう。気づかない人もいるけど、魂の成長の助けになっている人もいる。偶然は必然。それが私たち人間界にいる天使の仕事なの」
「そのリモートワーク、派遣のアンケート調査の仕事とか言ってたじゃんー」
僕は頭をグシャグシャと掻いた。
「ごめん」と天音ちゃんは、苦笑いで僕の膝の上に手を置く。
「ね、もし、僕が誰かにこれを話したらどうなるの?」
「私の存在自体を消されてしまう。もし、子供がいたら子供もね。話していい決まりは結婚した相手だけ。それでも、言わなくていい状態なら話さないに越した事はないのよ」
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