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「私も拓海君との子供は欲しいけど、拓海君と離れ離れになるのは、まだちょっと考えられないよ」
「……そうだね。僕も天音ちゃんと離れるのは嫌だな。でも、天音ちゃんの義父さんも、義母さんと離れるの分かってて、天音ちゃんを迎えたんだね」
天音ちゃんは小さく頷く。
「うん。2人とも自分たちの子供が欲しくて、迷わなかったって。特にお母さんは。私はお母さん程強くなれないな。拓海くんとまだ一緒にいたいよ」
「子供が大人になるまでって…きっとあっという間だよね。子供の事は……時間かけてよく考えよっか」
「うん、私たち、まだ新婚だし!」
天音ちゃんにいつもの笑顔が戻り、僕も微笑む。
彼女は夕食を温めなおすとキッチンへ行ってしまった。
天使のような可愛い子だとは思っていたし、そんな子が僕のお嫁さんになってくれて嬉しかったし、今でも十分に幸せだけど、まさか、ホントに天使だなんて……
でも、僕は、彼女の背中に翼が現れるところを見たし、まるで絵画の様に天音ちゃんが輝くのを見た。
驚いたけど、信じるしかない。
子供も……そうだな、今は…ナシ、かな。
これからも、ナシかも知れない……
考えてるうちに天音ちゃんが「夕食出来たよー」と声をかけて来たので、僕は「はーい」と返事をし、立ち上がった。
***
1年後。
僕と天音ちゃんは、結婚当初と同じく仲の良い夫婦だった。
1つ変わった事と言えば、天音ちゃんがたまにボンヤリとしている事。
何かあったのかと聞いても「なんでもない」と言う。
しかし、明らかに僕の話を聞いていない時もある。
彼女は一体どうしたのか。
「天音ちゃん、最近ホントにぼんやりしてるよ、どうしたんだよ、何でもない事ないだろ?」
「……」
「天音ちゃん?教えてくれよ」
金色の長いまつ毛を伏せて、彼女は僕の視線から逃れる。
「夫婦だろ?何か悩みでもあるなら助け合わないと」
碧い瞳がゆるゆると揺れている。
一体どうしたんだ。
「私…」
「なに?」
「……子供が欲しい」
「えっ…」
どちらかと言うと子供を作るのを反対しているような感じだった天音ちゃんから、まさか子供が欲しいと言われるとは思っていなかった。
しかも、子供を作るとなると、いずれ、僕たちは離れ離れになるという意味もある。
僕は一瞬言葉に詰まる。
「僕も、そりゃ、欲しいけど、天音ちゃんと離れ離れになるのは…寂しいよ」
「私もだよ。でも、最近やけに赤ちゃんの事が目に入るの。どうしても、欲しくて。私たちの赤ちゃん、欲しい」
僕は、喜んでいいのか、それとも反対すべきなのか、悩んだ。
お互いに歳を重ねて、過ごせないなんて…
「ちょっと考えさせて。僕も勿論子供は欲しいけど、すぐに決断できないから。ごめん」
「ううん、いいの。拓海君の気持ちもよく分かるから。私も拓海くんと離れるのは嫌だから、ゆっくり考えよ?」
天使だと知ってから、子供の事は全く考えない訳ではなかった。だけど、どこからどう考えていいのか、同じ事をグルグルと思うだけ。
そうだ。
義父さんの意見も聞きたい。
離れ離れになると分かっていても、子供を作る決心をどうやってしたのか。
義父さんの家までは、そう遠くない距離に住んでいる。
たまに遊びに行くけれど、天音ちゃんをとてもまるで小さな子のように可愛がるので、彼女はたまに苦笑いになっている。
まぁ、それだけ仲良しの親子という感じだけれど。
義父さんは僕にも優しい。
「何でも話してくれたらいいからね」といつも和かに話す。
もしかしたら、こう言う話もあるかも知れないと思って言ってくれていたのかも…と今更思う。
僕は仕事が休みの日に義父さんに1人で会いにいくことにした。
***
「拓海くん、久しぶり。どうぞ、上がって」
「こんにちは。お邪魔します」
お義父さんは温かく迎えてくれる。
「コーヒーでいい?」
「ありがとうございます。お義父さんが好きな近所のタルト買ってきました。一緒に食べましょう」
「お!ありがとう。ちょうど食べたいと思ってたんだよね」
コーヒーとタルトがテーブルに並べられる。
お義父さんは、椅子をひくと「よいしょ」といいながら座った。
「コーヒー、飲んでね」
「ありがとうございます、頂きます」
コーヒーを一口飲む。
「お義父さんも、タルト、食べて下さいね。沢山買ってきたんで。仕事終わったら天音ちゃんがこちらに向かうと言ってました」
「そうか。遠慮なく頂くよ。ここのエッグタルトは美味しいよ。うちの奥さんも好きだった」
お義父さんは、皿に並べたタルトを自分の皿に取って食べた。
「それにしても、珍しいね、拓海君が1人で来るなんて。嬉しいけど」
「はい、えっと、相談がありまして…あの、子供の事で」
お義父さんは言葉には出さなかったけれど、僕が何を言いたいのが、全て分かったようだった。
「うん、子供ね…天音はなんて?」
「欲しいって言ってます。でも、僕が決断できなくて。お義父さんはどうやって決めたのか、話を聞きたくて、来ました」
「そうだね、寂しくないと言ったらウソになるけど、かわいい天音を残してくれた。歳をとった時に子供がいないと後悔するのも嫌だった。奥さんとは会えないけど、それでも、私と彼女の宝物を残しておくことに最後は賛成したんだ、彼女は本来居るべき場所に帰る時も、後悔なく戻っていった。強いね女性は」
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