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風邪にご用心①
身体が怠くて頭が痛くて、鼻水は止まらないし、しかも鼻が詰まる。
咳は出るし喉はおかしいし、どんどん頭がボンヤリしてくる。
この状態、自分の身に何が起きているのか、認めたくはないが薄々と気がついている。
すると、
「早退しなよ」
大知がデスクに突っ伏しそうになったその時、上から声が降ってきた。
この声が誰のものなのかは分かりきっている。
無視してやろうかと大知はそっぽを向いたが、構わず声は更に降ってきた。
「もう夏じゃないのに、風呂上がりにいつまでも髪も乾かさずにウロウロして、そのままテレビ見ながらソファでうたた寝したのが原因だよ」
己の迂闊で短絡的な行動を膚浅だと言わんばかりに理路整然と並べられ、大知はムカッと声の方を振り仰いだ。
「うるさいな!」
声を荒げたつもりだったが、掠れてしまったため大した威力は無かったようで。
虚勢を張った台詞は綺麗に無視され、背後にいた声の主の深山に髪を優しく掻き上げられ、額に手を当てられた。
「熱いね。もっと上がる前に帰った方がいい」
冷たく感じる深山の手の平は熱っぽい額には心地良い。
だが、すぐに風邪の初期症状である寒気が背を駆け上る。
「残っている君の仕事は僕が片付けておいてあげるから、帰って休みなよ」
深山はそんな優しい言葉を言ってくれるが、これは大いなる甘言であり、後に何か必ず代償を求められるに違いない。
それでも、どんどん上がっていく自身の体温を感じれば文句を返す気力など無くなっていく。
結局、深山に促されるままに大知は早退することにした。
*
*
大知の身に起きた痴漢騒動の後、深山に100%脅迫のような強要をされ強引に同棲へ承諾させられた。
そればかりか、ベッドの上でのピロートークによるジョークでした、などという逃げ口上は許さないとばかりに、持ち主である大知の断りもなく、家具から身の回りのものから全て一式没収され。
現在、大知は深山の自宅に軟禁、ではなく、世間一般的に言う同棲をしている。
ここまで来ればもう逃げ場などは無い(それ以前からすでにあらゆる退路は断たれていた気もする)
業務が終了しても、どこかへ気晴らしに飲みに行き酔い潰れる云々などという勝手な行動は一切許されず(黙ってそんな事をしようものなら後でトンでもない目に遭う)大人しく家と会社の往復をこなし。
また妙な玩具でも持ち出されては敵わないので、大知はひたすら “触らぬ神に祟り無し” を地で行き、深山には逆らわないようにしていた。
取りあえず、この身体の不調を何とかするためにもまずは病院へ行き、ただの風邪と診断された後、無事帰路に就いた大知は、着ていたスーツを脱いでラクなスウェットに着替え、処方された薬を流し込むとベッドに倒れ込んだ。
すでに身体には猛烈な寒気が襲っていた。
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