風邪にご用心②

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風邪にご用心②

   寒い。物凄く。そして身体の節々が痛い。  深く眠ろうにも眠れず、大知(だいち)は布団の中でウトウトと浅い眠りを繰り返していた。  だが、その寒気による不快感は いつの間にか、激しい耳鳴りと息苦しいほどの熱さに すり替わっていた。  大知が咳き込む度に苛む頭痛と耳鳴りに唸っていると、ふと 額にひやりとした感覚が宛がわれた。 「随分 熱いね。熱は測った?」  どうやら深山(みやま)が帰ってきたらしい。  ということは今は既に夜で、己がベッドに倒れ込んでから数時間が経過していたのだと分かる。  深山の問いに うーーとも んーーともつかない返事を返し、大知は耳鳴りに顔を顰めながら目を開けると、目の前に体温計を差し出された。  一応尋ねたものの、大知が体温など測っていない事は予測済みなのだろう。 「食欲はある?」  38度8分と計測の済んだ体温計に目を走らせながら、深山が聞いてきた。  朝食の後、飲み物程度しか口にしていなかったが、この熱で食欲が無かった。  また うーーと唸る大知に深山は苦笑しながら、ちょっと待っててと告げ、寝室を出て行った。    *  *   「大知」  またウトウトしていたが名を呼ばれ大知が目を開ければ、食事の載ったトレイを持つ深山が佇んでいた。 「ほら、何か口にした方がいいよ」  怠い身体を起き上がらせた膝の上にトレイが置かれる。  見れば、細かく刻んだ野菜と鶏肉、パスタが入ったコンソメスープと、大知の好物であるストロベリーの上にヨーグルトが掛けられたデザートが載っていた。  身体が弱れば気持ちも弱るものなのか、あまりに神々しくも有り難い食事を目にした大知は、現金にも同棲して良かったと、初めて心から思ってしまった。  独り暮らしだったならばこうはいかない。  せいぜいスポーツドリンクで風邪薬を流し込み、ひたすら寝ていただけだろう。  そうして、食欲など全く無かったはずなのに綺麗に完食し、大知は食後の薬を飲んだ後、また眠ろうとして、ふいに深山に声を掛けられた。 「薬も良いけど、これも使えばラクになるから挿れてあげるよ」  ────今、何か非常に不穏なことを言われた気がする。  熱のせいでボンヤリして聞き間違えたのだろうか。  大知は目を瞬きながら深山の顔を凝視した。  しかし彼は例の質の悪い薄い笑みを浮かべており(間違いなく目は笑っていない)更に深山が手にしているモノが何なのかを見て、大知は全力で逃げ出したくなった。  勿論、高熱で身体に力が入らない身では叶うはずもないが、それにしたって そんなもの。  深山が手にしているモノは、紛う事なき “座薬” だった。   ※次回、また破廉恥行為が繰り広げられます。座薬という単語に嫌な予感がする方は飛ばして下さい。
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