いやいや、やっぱり温泉だろう★

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いやいや、やっぱり温泉だろう★

   大知(だいち)は懊悩した。  ここで『嫌だ』『入りたくない』『卓球がしたい』などと言えば、後程トンでもない目に遭うのは目に見えている(主にベッドで)  やはり大人しく一緒に風呂に入った方が賢明であろう。  大知は頭をフル回転して思考した。というより、もうそれしか選択肢がない。  いつもいつも一つしか選択肢が用意されていないのは是如何(これいか)に。  とにもかくにも、さっさと入っていく深山(みやま)を追い、大知は黙って風呂に入ることにした。  眼前にはなかなか立派な露天風呂が見えている。確かに日頃の疲れが取れそうな感はある。  しかし、ここで余計な疲れを背負い込む可能性もある。  そうなってしまう前に牽制しておく必要がある。  大知はボソリと深山へ尋ねた。 「あーーー深山? ここで妙な事はしないよな?」 「妙な事とは?」 「そ、それは・・・」 「ここが風呂なのは見ればわかると思うけど、風呂に入る他にどんな意味が?」 「・・・う、」  しまった。墓穴を掘った。  大知が あ~、とも うー、ともつかない声をあげていると、突然お湯を頭にかけられた。 「!!??」  熱くはないが一瞬思考が真っ白になる。  すると、むこうを向いて という深山の声がして、そのまま髪を梳くように指を差し入れられる。どうやら頭を洗ってくれるらしい。  何にでも言えることだが、こういう事は誰かにやって貰った方がラクだし何より気持ちが良い。  特に深山は上手い。というか何をやらせても上手い。料理も上手い。(セックスも上手いというのは癪なので思考から追い払った)  深山は大知の事を器用だとよく言うのだが、彼の方がずっと器用だと思っていた。  とりあえず、大知は大人しく洗って貰った。  泡をたっぷりと含ませ、髪と髪の隙間を指が梳いていき、頭皮も指の腹で丁度良い力加減でマッサージするように洗われる。  やはり自分で洗うよりも、誰かに、更にそれが恋人ならば格別心地良いものである。  大知はすっかり気持ち良くなり、先程までの不満など忘れて寛いでいた。  そうしているうちに、シャワーのお湯で泡を流され、洗髪は滞りなく終了した。  タオルでお湯のしたたる髪を拭かれた後、自分で顔を拭っていると深山が事も無げに言い放った。 「次は身体を洗ってあげるよ」  見ると深山は手の平に出されたボディーソープを馴染ませている。  洗ってあげるよ、という言葉にも大いに疑問を抱くが、何故 素手なのだと言いたくなる。スポンジやタオルを使うという発想は無いのだろうか。  大知は丁重にお断りするか否か、非常に迷った。断るとやっぱり後が怖い。  だが、視線を彷徨わせる大知が逃げ口上を必死で探していることなど彼にはお見通しなのだろう。深山は先手をうってきた。 「僕の手じゃ嫌なのかな?」 「・・・・・・・・・」  怖い。目が怖い。穏やかな顔をしているが、やはり目が笑ってない。  大知はただただ首を横に振った。  しかしきちんと言っておかなければ。 「でも、深山、頼むから普通に洗って欲し、っ、ぃ!!」  語尾が変な声になったのは深山のソープでぬめる手が突然 脇腹を掠めたからだ。 「っ・・・っ!」  思わず背筋が伸びてしまう。  すると手は脇腹を這い上がり脇の下を洗い始める。 「!!!」  くすぐったい。  身を捩りかけると、それを阻むようにもう片方の手が背中を押さえるようにゆっくり洗っていく。  わざとやっているのはわかっている。  くすぐったい所ばかりを手が掠めていく。  項を指でなぞるように洗われ、俯けば再び背中の肩胛骨をつと撫でられ、背筋が引き攣るようになる。 「深山、くすぐったい!」  文句が無意識に口から飛び出したが、返事は返って来なかった。  その代わり背や項を撫でていた手が脇の下からぬるりと入ってきてそのまま胸元に伸ばされる。 「ひ・・・」  びくっと身じろいでいると、手は無遠慮に胸をぬめる手で洗っていく。  その度に深山の手の平が乳首を掠め、その確信犯的所作に大知は後ろを振り向き、止めてくれと言おうとした。  すると、それも見越したように掠めていた指で突起を摘まれ指の腹で擦られた。 「ぅあ!!!」  意図せず出た声は風呂場に反響して恥ずかしいことこの上ない。 「深山! 手を・・・」  もう一度振り向き今度こそ文句を言おうとしたが、それは口付けられて遮られた。 「ん、っぅ、」  合わさった唇を甘噛みするようにしながら隙間から舌を差し込まれる。  その感触に気を取られていると、胸元にあった手が更に尖りを摘むように捏ねってくる。 「!っん、んん」  絶対 普通に洗うわけがないと思ってはいたが、案の定 当たり前のように性感帯を刺激され、大知はあのまま卓球をしなかったことを大いに悔やんだ。  どっちにしたって結果は変わらないというのに。  突起はすでに硬くなり、深山のぬめる手が行き交う度に擦れて痺れるような感覚を与えてくる。  ようやく唇が解放され、大知はそれでも往生際悪く深山へ文句を言おうとした。  だが、今度は片手が乳首から手が腹へと移動し、臍を爪の先で軽く搔くように触れられる。 「~~~~~っ」  臍もかなり弱い部分だということなどは深山にとっては分かりきってることで、指先が更に臍の窪みを捏ねてくる。  俯き堪えていると、深山が大知の耳元へ顔を寄せた。  そして耳裏の水滴を舐め、囁く。 「あのまま真白(ましろ)くんと卓球をしていれば良かったと思っているんだろう?」 「・・・っ!」 「風呂を上がったら行って楽しんで来なよ。好きなだけ」 「・・・」 「行けるものなら」 「!」  ああ、やはり怒っている。  このままでは不味い。絶対、不味い。大知は慌てて弁明しようとした。 「お、俺は別に、」  しかし、その前に胸元にあった深山の手が腹を滑り、膝の上に掛けていたタオルを突っ切り下肢へと伸びた。 「っぁ、~~~~!!」  散々胸や臍を弄られたせいで緩く勃ち上がりかけていた性器を無遠慮に触れられ、大知は思わず身体が跳ねた。 「手、手を、」  離せ、と大知は深山の手を掴み引き剥がそうとしたが、そのまま握り込まれ ぬめりをかりて上下に扱かれた。 「ぁ、っあ、深、山、~~~」  根元から数度扱き上げられれば すぐにそれは質量を増し、括れを捉えられながら現れた鈴口を深山の指の腹が丹念に擦っていく。 「手、を離・・・し、ぁ」  俯きぶるぶるしていると、耳元で深山が囁く。 「僕はただ洗ってるだけだよ。君が勝手に反応してるんだろう?」 「ち、違、」  反論しようとすれば、尚も指先は滑り、裏筋を親指で押し上げるように扱き括れを何度も指の腹で擦られる。 「まだ、真白(ましろ)くんと遊びたい?」  ああ、やはり怒ってる。すごく怒っている。  大知はブルブルと首を横に振った。  だが、尚も彼は耳元で囁く。 「きちんと言葉にして言ってくれないかな? 君はすぐ誤魔化すだろう。僕は君の口から聞かないと納得出来ないよ。少しも」 「み、山、・・・行か、ない。お前と、いる、から」 「本当?」  大知は首をがくんがくんと縦に振った。  もう苦しい。  この問答中も深山は性器の愛撫する手を一切緩めていなかった。  だが、その手付きは巧妙で、達するには足りないような加減なのだ。  イキそうなのにイけず、緩く膨らみを揉まれたりするもどかしい戯れも加わり、大知は唇を噛みしめた。  深山は弄んでいた手をするりと解放した。そして再び囁く。 「じゃあ、そこに四つん這いになってくれないかな」 「! な、なに」  深山の意図することはすぐにわかる。  でもまさかこんなところで本当に始めるつもりなのだろうか。  せめて部屋に戻ってからにして欲しい。  すると深山はおもむろにシャワーヘッドに手を伸ばし勢いよくお湯を出しだ。 「っ!!」  泡立っていた下肢に突然シャワーを当てられて大知は身を竦ませた。  しかも勃起している性器へわざとダイレクトにシャワーが当たるようにされ、中途だった絶頂感が再び擡げ、呻いてしまう。 「勿論、僕はここで止めてもいいよ。でも、君、そのままで部屋に戻れるかい?」  そのまま、とは勃起したままで、ということだろう。どんな羞恥プレイだと言いたくなる。  勿論、彼はそれを見越して言っている。その証拠に口元が冷淡に微笑んでいる。 「それとも自分でする? イくまで待っててあげても良いよ」 「・・・っ」  こんな状態にしたのは彼自身だというのに、なんてサディストなんだろう。 「どうする?」  どうするか、深山は大知の口から言わせたいのだ。  いつもそうだ。  選択肢は一つしかないくせに、選ばせようとする。  自分で選び取った答えなのだと、納得させようとする。逃げる事が出来ないように。  それにしたってどうしてこう彼はすぐ怒るのだろう。  しかも絶対に皆の前では怒りを露わにすることがない。  いつも二人きりになってからこうやってねちねちと虐めてくる。  そう深山に言えば “君にはどうせ言ってもわからないから” と勝手に決めつける。  だからといって身体に訴えればいいというものでもないではないか。    大知が現状を忘れ、ムッとしていると深山がもう一度、どうする? と聞いてきた。  そして水気を含み垂れている前髪を優しく掬い上げられる。  口調は冷淡だが、なんだかんだいって所作は優しい。  この妙な温度差というか飴と鞭のせいでいつも大知は憤りを煙に巻かれてしまう。  それすら多分計算ずくなのだろう。  大知は不承不承 言った。 「君といると言っただろう。君とする」  *  *  四つん這いになれば、深山のボディーソープでぬめる指が下肢を彷徨う。  奧を探られ、薄い粘膜を撫でる感触に声が上がり、その嬌声は浴室にこれまた響いて大知を居たたまれなくさせたが、そんなことはすぐに思考から消え去った。  手の平を返した指の腹が勝手知ったる弱い場所を探り当て、搔かれるともうどうでもよくなってしまう。  反る背に口付けられ舐められる感触にただ喘いでいると、腰を抱え直され強くつかまれる。  押し入って来た熱に大知は更に嬌声を上げたが、深山はもうそれを冷淡に揶揄することなく、労るように髪を撫でてきた。  そして凸凹の無い御影石の床でも抽挿の度に顔をぶつけないようにと、額の下に手をまわされる。  変な所に神経細やかだし、こうやってすぐ優しくする。  だからやはり逃げ場など無いのだ。  そうして、シャワーなのか、汗なのか、それとも。  性器の先からパタパタと零れ落ちる雫と共に丁寧に扱いていく。  さんざん弄られた後で大知は限界が近かった。  反り返る先端を腹筋に擦りつけるように扱かれ、大知は身を震わせ深山の手の中に達した。  それと同時に大知は息をつく間も身を起こされ、激しく揺さぶられた。 「っぁあ、・・・」  突き上げられた後、蠢動する腹の奧に直に熱を感じ、溢れるような感覚に大知は眉を顰めた。  そうだ、元よりコンドームなんてものはなかった。  いくら用意周到な深山でも、事前に持ち込むなんてことまでしないだろう。入る時も手にしていなかった。  後始末のことを考えると大知は気が滅入った。 「お前・・・わざと、」  外に出さなかっただろう。  と文句を言う前に、深山はゆっくりと身を引いた。  少し中を搔くようにして身を引けば、ある程度は掻き出されるが、達してすぐの身はその挙動に再び煽られそうになる。 「うーーーー」  大知が呻いていると、更に煽るように項に口付けられる。  思わず身を竦めれば、突然深山の手が下肢に回された。  そして精液に濡れている後孔に指をあてがわれ、無遠慮に中をまさぐられる。 「!!!!!」  残滓を掻き出そうとしているのだろうが、それにしたって余計なお世話だ。  身を捩ってその手から逃れようとすると、深山が苦笑した。 「ああ、自分でしたいのかい? じゃあ、いいよ。どこにも行かずに僕とここにいると言った君は、勿論この場で自分の指で掻き出すんだろう?」 「・・・・・・・・・」  酷い。  逃げ場がまるで無い。どこにも無い。  一体全体 誰のせいだと思っているのだろう。  大知には最早 為す術など無く、本当に掻き出そうとしているのかと疑いたくなるような前立腺を際どく掠める指に、ぷるぷるしながら深山にしがみつき耐えるしかなかった。 「可愛いなぁ、君は。」  吹き出しながら深山が言って、大知は羞恥で爆発しそうになる。  可愛いなどと言われてもちっとも嬉しくない。嬉しいわけがない。  結局、その後もすんなり風呂から出して貰えるはずもなく、延々と露天風呂に浸からされ、触ってくる深山の手を避けつつも、やはり捕まり、散々ナニをナニされ、風呂から出る頃には大知はすっかりのぼせていた。  *  * 「あら、幸村(ゆきむら)くんは来ないの?」  部屋のドアの向こうで先輩である女史・藤堂 綾子(とうどう あやこ)の声がする。  どうやらこれからバーで仲間達と飲み会があるらしい。 「ああ、幸村くんは風呂に浸かりすぎてのぼせたんですよ。だから無理だと思います。頭が痛いそうだから」  いけしゃあしゃあと深山が答えている。 「じゃあ、私たちだけで楽しんでくるね! お大事に!」 「お大事にー!」  クスクス笑う藤堂と一緒に、部下の野﨑 理沙(のざき りさ)の声まで聞こえる。  せっかく旅行に来てもこれではいつもと変わりない。  親睦を深める社員旅行の意義が無さすぎる。  部屋のドアを閉め、戻ってきた深山を無言で睨んでいると、苦笑しながら冷たいミネラルウォーターのボトルを額に当てられる。  大知は文句を言わずにはいられなかった。 「わざとだろ、全部!!」  深山から逃れ真白(ましろ)と卓球に興じようとしたのを阻み、果てには飲み会まで回避させられた。  部屋は前もって同室で、事前に風呂まで貸し切って。  大知の文句に深山は飄々と人の悪い笑みを浮かべた。 「まさか。そんなわけないよ」 「嘘だ!」 「いい汗が温泉で流せて良かったじゃないか」 「・・・」 「明日、二日酔いで見苦しい姿になるより、湯あたりの方がラクだろう?」 「・・・」  さらっと酷いこと言われた。  しょっちゅう二日酔いになっていた大知をさらっと(たしな)めた!  でも、真実なのでそれについては何も言い返せず、ただ恨めしく深山を見ていると。  彼はにっこり微笑み、 「それにくらべたら有意義な時間を過ごせたし。良かったね、大知」 「良 く な い !!」  深山がくれたペットボトルを痛む額に押し当て、大知は精一杯喚いたのだった。  
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