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事の発端①★
*初っ端からモブからの痴漢描写があります。嫌悪感を抱かれる方は飛ばして次のページへどうぞ。
突如 襲った感触に、大知は我に返った。
何度 経験しようとも、この満員電車だけは慣れられそうもない。窮屈、息苦しい、超ストレス。
十数分間の事とはいえ、この苦痛が永遠に己を苛むのでは疑いたくなる。
それでも明日からは週末で仕事は休み。
課せられていた激務も数日前に無事山場を乗り越え、然程 忙しくない。
この朝の鬱現象さえ乗り切れば、あとは野となれ山となれ。
その時、ふいに臀部に違和感が走ったのだ。
「・・・!」
満員電車内、背後も横も前だって人だらけ。
この違和感、もとい不快感を与えてくるモノがどこから伸びてるのかなど、視覚で確かめる事は難しい。
大知は盛大に顔を顰めた。
本当なら身を捩ってその手を掴み、引き摺り出して殴り飛ばしてやりたい。
実は、大知にとってコレが初めてのことではなかった。以前からこういうことは多々あった。
その時は この野郎ふざけるな と、嫌がらせ もしくは からかわれているのだろう位にしか思わず、深く考えもしなかったのだが、よくよく考え直してみればこういう事が起き始めたのは、まだ恋人になる前だった深山から妙なスキンシップを迫れ始めてから急に増えたような気がしていた。
あの頃、恋人ではなくただの友達で同僚だった深山から、前触れもなく尻を触られたり抱き寄せられたり、それはもうセクハラ同然のことをされ続けていたせいで、当時は満員電車で痴漢に遭っても彼がやっているのかと瞬時に疑ったりしたものだ(そんなことは絶対に本人には言えないが)
しかし深山は電車通勤ではないし、彼が出張でいない時にも起きるので、全くの別人による仕業なのはすぐに分かったのだが────
そんなこと、今はどうでもいい。
問題なのは、現在、この現状だ。
触れられた感じ、手が大きい。
相手は男に間違いない。
「・・・っ」
そう考えただけで大知は背に悪寒が走り、冷や汗が浮いた。
男が見も知らない男に痴漢行為を働いて愉しいモノなのか。理解が出来ない。
紆余曲折を経て恋人になった深山は自分と同じ男ではある。だとしても、己は野郎に触られて喜ぶような性癖は無い。
見れば、横にはなかなか綺麗なお姉さんが立っているし、そっちを触った方が絶対良いと思うのだ。
もしかしたら、痴漢野郎は相手を間違っているのかもしれない。
本当は横のお姉さんを触ろうとしていて、でもこの混雑のせいで、きっと目標を見誤ったのだ。
と、そんなことを思っても何の慰めにはならず、触れてくる手も止まらない。
しかも、いつもなら撫でる程度で済むのに今日は やたらと長い。
満員電車の中 身動き出来ず抵抗しないのを良い事に、臀部に添えられていた手の位置が徐々に下がっていき、太股の付け根 内側を意味深にさすってくる。
その感覚に、ぞわっと鳥肌が立った。
ここまで来れば相手は人違いでも何でもなく大知へ狙いを定めて触っているのは一目瞭然であり、この手が何を示唆するかも経験上よくわかっていた。
「っ────、」
舌打ちしそうになるのをおさえ、奥歯を噛みしめる。
必死で身を捩り、触れてくる手から逃れようと足の位置を変えた。
この努力が実を結んだのかはわからないが、手は一旦、太股から離れた。
が、すぐさま手は戻り、己の尻に再び触れ、今度はその手に力が籠る。
「!?!」
ああ、なんだってこんな朝っぱらから野郎なんぞに尻を揉まれなければならないのか。
悲嘆しそうになる大知に追い打ちをかけるように、手が、そして指が更に大胆な動きになる。
「!!!」
ジャケットのセンターベンツからだろう、差し入れられている手は嫌らしく尻をまさぐり、そして指が双丘の合間 奧へと・・・
思わず、ひ、と喉が引き攣り声が漏れ出そうになる。
声は咄嗟に止められたが、びくりと身じろぐのは抑えられなかった。
すると、まるでその反応に勢いづいたかのように指の腹がスーツの布地の上からぐりぐりと押し付けられ、果てには手の平で臀部を再び揉んでくる。
明らかに性的なモノを彷彿とさせる手付きに、妙な声を出すのだけは捉えなければと大知は唇を噛みしめた。
それでも涙目になりかけるのを止められそうもない。
(早く駅に着いてくれ────)
吊り革を掴む手はすでに ぷるぷるしていた。
勿論これは感じ入っているから故の震えではない。羞恥と怒りによるものだ。
尻など今も昔もしょっちゅう深山には触られているのだが、こんな吐きそうなくらい嫌な気分になるのは初めてだった。
ここで負けて触られ放題など冗談じゃない!
吊り革を手にしている片手はどうにもならないが、鞄を持っている手で、今すぐこの不埒な手を振り払い退けてやるのだ。
周囲は何事かと思うかも知れないが知ったことか。
大知が鞄を持つ手に力入れたその時、ふいに尻とその合間を蹂躙してた手が引いていった。
出鼻を挫かれるような思いだったのも束の間、その手が今度はジェケットの下から腰を撫で、更には あろう事か大知の前に、そう、股間にまわってきて、
「!!??!??!」
瞬間、ザァッと血の気が引く音が本当に頭の中に聞こえた。
幸いなことに、その後タイミング良く電車が駅に到着し、大知は無我夢中で人を掻き分け、すぐ近くのドアから下車した。
しかし、降りた駅が目的の駅に一つ前の駅だった。
結局、発車する電車を背で見送る羽目になったわけだが、今の時間帯なら次に来る電車に乗ろうとも同じように満員電車なのは確実。
そんなものにもう今日は乗りたくない。
なら、ここから会社まで徒歩? 遅刻必至もいいところだ。
大知は今度こそ涙目になった。
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