第12話:優秀な執事(Side:ダーリー②)

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第12話:優秀な執事(Side:ダーリー②)

 ガーデニー家に全然召使いが来ない。 「エドワール、召使いなんかすぐに来るんじゃなかったの!?」  お義母様がカンカンに怒っていた。 「あ、あぁ、以前は誰かが辞めたら、すぐ新しい奴が来ていたんだが……。なぜだ……。ガーデニー家と言えば名門貴族だぞ。それにルドウェン様と結婚すれば王家の一員になる。どうして誰も来ないのだ」  私も不思議でしょうがなかった。  庶民の貧乏人が貴族の下で働ける絶好のチャンスなのに。 「すみませーん。召使いとして勤めたいのですがー、どなたかいらっしゃいますかー?」  そのとき、門の方から男の人の声が聞こえてきた。  私たちは急に色めきだつ。 「ほらみろ。早速来たじゃないか」  お義父様が出て行こうとしたけど、お母様が引きとめた。 「待ちなさい、エドワール。もしポンコツだったらどうするの? 一から仕事を教えてやるなんて、私イヤよ」  たしかに、お母様の言うとおりだ。 ――そしたら私も教えなきゃいけないのかなぁ。めんどくさーい。 「それもそうだが……。うむぅ……、まぁ、とりあえず会ってみよう。無能だったら断ればいい」  ということで、お義父様が男の人を連れてきた。  どことなく地味で、いかにも執事やってましたって感じの人だ。  だけど、ニコニコしていてとても愛想がいい。 「失礼いたします。私はヘンリック・ルーマンと申します。かの有名なガーデニー家で召使いを募集しているとお聞きし参りました。リンドグレン家で二十年程執事として仕えておりましたので、お役に立てるかと思います。こちらで執事として働かせて頂けないでしょうか? これが経歴書でございます」  一枚の紙をお義父様に渡す。 ――リンドグレン家って地方の小さな貴族よね。うちみたいに大きなところで勤まるかしら? 「ふむ……。確かにリンドグレン家の印が押してあるな。しかし、どうして辞めたのだ?」 「はい。実は母がこの近くに住んでいるのですが、具合を悪くしてしまいまして。面倒を見るために辞めざるを得なかったのです」 ――へえ、苦労してるんだ。 「そうか。だが、雇うかどうかは仕事ぶりを見てみんとわからんなぁ」 ――フフッ。お義父様は今日だけでもタダ働きさせようとしているわ。 「ガーデニー様のおっしゃる通りでございます。一日働かせてもらってからご判断ください。もちろん、今日の分のお給料はタダで結構です」 「まぁ、それは当然だな。じゃあ早速始めてくれ」  お義父様はもくろみが成功して嬉しそうだ。  ということで、一日ヘンリックを雇うことになった。  結論から言うと、彼の仕事ぶりは完璧だった。  察しも良いし、掃除も料理もあっという間にやってしまう。  しかも、今までの召使いたちよりずっと上手だった。  こんなに有能な召使いがいなくなってるなら、リンドグレン家はさぞかし痛手だろうに。  しかし、資産関係の書類だけはどうしようもなかった。 「ヘンリック、この書類も何とかしてくれないか」 「旦那様、申し訳ございません。さすがにこればっかりは私でもわかりません。せめて古い書類でもあれば、照らし合わせてなんとかなると思うのですが」 「そうか、昔の書類を見せればいいのか。もしかしたら、ロミリアが部屋に置いていったかもしれないな」  そういうとお義父様は、お義姉様の部屋から大量の紙を持ってきた。 「ちょっと、エドワール」  そのままヘンリックに見せようとしたとき、お母様が呼び止める。 「ほんとに見せても大丈夫かしら?」 ――たしかに、ヘンリックは会ったばかりの人だ。 「大丈夫だろ。仕事はできるし、何より態度がとても良いじゃないか。別に悪いことなんか考えてないよ。お前もそう思うだろ?」 「言われてみればそうね」 ――そうよ。ニコニコしてるし、私も悪人だとは全く思わないわ。  それに、私たちは日々溜まっていく大量の手紙と書類に、うんざりしていてしょうがなかった。  昔の書類を見せると、これもまたあっという間に片付けていく。 「旦那様、深夜までかかるかもしれませんので、もうお休みくださいませ。」  ヘンリックは嫌な顔ひとつせずに言った。 「そうか。すまんなぁ」 「ところで、旦那様……私はここにお仕えしてもよろしいでしょうか?」  ヘンリックがおそるおそる聞いてきた。 ――もちろんよ! 「もちろんだ、是非ともこの家に仕えてくれたまえ」 「もうヘンリックなしでは考えられないわね」 ――良かった! これでもう手紙を運んだりしなくてすむわ。そうと来たら、またおしゃれのことを考えなきゃ! えーっと、次に欲しいドレスのデザインは……。
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