令和エモい

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令和エモい

 まさか今頃になってマスクが高値で取引されるとはねえ、うちらにとっちゃ歴史の教科書でしか知らんし。  おばあちゃんからもらった、令和式タブレット端末でオークションサイトを見ていた妹が「懐かしい味」とママが言っていた、黒糖で色付けした大きなタピオカが入ったいちごミルクを飲みながら呟く。  原宿でやっている期間限定「令和エモいにタイムスリップ」なんていうイベントに行って買って帰ってきたのだ。  パパやママがうちらぐらいだった頃に、はやったモノいろいろが売っていて、ママはすごくはしゃいじゃって、妹はそれの方がなんか面白かったらしい。  人混みが苦手なパパと私は行かなかったけれど、ママと妹は満喫したらしく、にこにこして帰ってきた。  お土産はなんでか妙に毒々しい色をした琥珀糖やグミ、ただ甘いだけのお菓子たちだらけ。  まあ嫌いじゃないけれど、歯医者行くことになりそうだねと言うと、パパが笑う。 「俺たちが懐かしいのはわかるけれど、子供たちはグミや琥珀糖とか食べたことないだろう。ブームなんかとっくに終わったと思ったし、コンビニでも売っていないからなあ。それよりマスクのほうが馬鹿らしいというか、古いなって思うよ。あんなウイルスはとっくにワクチンも予防薬も開発されて、毎年国費で供給することが国会でも決まったっていうのに」  まさか突然変異かい、と父が妹に訊ねると「そんなわけないじゃん」と鼻で笑い、タブレット端末の画面を向ける。 「マスクしてカラコンして、目元だけキリッと見せるメイクが流行ってるわけ。イベントの影響かもしれないけれど、ユミもリコもみんな揃えちゃって、ミクもやりなよって言われてさ。そうそう、この行列を見てよ。パパはドラッグストアって言ってたけれど、今はアパレルの店だよ?カラフルなマスクで、令和風ファッションだってさ。ねえパパ、当時ってどんな感じだったの?」
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