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今年98歳になる大ばあばも、時々、記憶が子どもに戻ってしまうときには、栄養バーは嫌、ということがある。
「こんなの食事じゃないわ! 『ちゃんとした食事』を食べたい」
駄々をこねる大ばあばにお母さんはキレて、私と妹は困惑した。だって、大ばあばが子どものころって今からざっと90年くらい前で、そのころのこの家は、平均的な、特にお金持ちじゃなかったって聞いていたから。それなのに、『ちゃんとした食事』をしていたってことよね? 私たちが食べたこともない、それどころか見たこともない、ちゃんとした食事を。
どういうことだろう? 誰もがちゃんとした食事をしていたっていうのは、てっきり、都市伝説みたいなものだと思っていたのに。
***
調べてみたら、びっくりなことがわかった。
大ばあばが子どもだったころ、この国は本当に食料が豊富にあったらしい。そして、ちょっとでも賞味期限が近付いたらどんどん捨てていたって。
「捨てる? 食べ物を? え、どういうこと?」
だってまだ食べられるんでしょ? と言って妹は瞠目した。
「そうだけど、でも、期限を過ぎる前に捨てていたってさ」
「なにそれ? ねえ、それって偽情報じゃない?」
信じられない気持ちはわかる、だって、私だって信じられない。でも、どうも本当らしい。
賞味期限切れの前に捨てられる食料があまりに多くて、処理がたいへんすぎて社会問題になったって。それに、レストランで(この存在自体、もうすでに都市伝説レベルだけれど)で食べ残したものも捨てられていた。持ち帰る人はほとんどいなかった。
「だってもうお腹いっぱいなんだもの」
そんな言葉とともに、捨てられていた食べ物。お腹いっぱいってどんな感じ? 捨てるならちょうだいって思った。この人たちのせいで、今私たちが苦しんでいるんじゃないのか、という気すらしてくる。ぼんやり考えていたら、
「ねえ見てこれ! 食べ放題だって!!」
私の言葉を信じられなくて、調べ物をしていた妹の声が上がる。デジタル化された古い雑誌の特集のタイトルは、
「コスパ最強の食べ放題10選!」
焼肉、ケーキ、フルーツ…本でしか見たことがないような食べ物の名前が並ぶ。
「食べ放題。これって、いくらでも食べていいって意味よね?」
なにそれ、天国じゃん! そう言う妹に、でも、食べ過ぎは苦しいらしいよ、と言ってみた。苦しいらしい。推測。だって経験したことないもん。
たくさん食べることが苦しい? そんなことあるわけないじゃん! 妹は喧嘩腰な口調でそう言った。
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