A.D.2121 満腹になるまで食べるなんて、それはもう都市伝説

2/3
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
 今年98歳になる大ばあばも、時々、記憶が子どもに戻ってしまうときには、栄養バーは嫌、ということがある。 「こんなの食事じゃないわ! 『ちゃんとした食事』を食べたい」  駄々をこねる大ばあばにお母さんはキレて、私と妹は困惑した。だって、大ばあばが子どものころって今からざっと90年くらい前で、そのころのこの家は、平均的な、特にお金持ちじゃなかったって聞いていたから。それなのに、『ちゃんとした食事』をしていたってことよね? 私たちが食べたこともない、それどころか見たこともない、ちゃんとした食事を。  どういうことだろう? 誰もがちゃんとした食事をしていたっていうのは、てっきり、都市伝説みたいなものだと思っていたのに。        ***  調べてみたら、びっくりなことがわかった。  大ばあばが子どもだったころ、この国は本当に食料が豊富にあったらしい。そして、ちょっとでも賞味期限が近付いたらどんどん捨てていたって。 「捨てる? 食べ物を? え、どういうこと?」  だってまだ食べられるんでしょ? と言って妹は瞠目した。 「そうだけど、でも、期限を過ぎる前に捨てていたってさ」 「なにそれ? ねえ、それって偽情報じゃない?」  信じられない気持ちはわかる、だって、私だって信じられない。でも、どうも本当らしい。  賞味期限切れの前に捨てられる食料があまりに多くて、処理がたいへんすぎて社会問題になったって。それに、レストランで(この存在自体、もうすでに都市伝説レベルだけれど)で食べ残したものも捨てられていた。持ち帰る人はほとんどいなかった。 「だってもうお腹いっぱいなんだもの」  そんな言葉とともに、捨てられていた食べ物。お腹いっぱいってどんな感じ? 捨てるならちょうだいって思った。この人たちのせいで、今私たちが苦しんでいるんじゃないのか、という気すらしてくる。ぼんやり考えていたら、 「ねえ見てこれ! 食べ放題だって!!」  私の言葉を信じられなくて、調べ物をしていた妹の声が上がる。デジタル化された古い雑誌の特集のタイトルは、 「コスパ最強の食べ放題10選!」  焼肉、ケーキ、フルーツ…本でしか見たことがないような食べ物の名前が並ぶ。 「食べ放題。これって、いくらでも食べていいって意味よね?」  なにそれ、天国じゃん! そう言う妹に、でも、食べ過ぎは苦しいらしいよ、と言ってみた。苦しいらしい。推測。だって経験したことないもん。  たくさん食べることが苦しい? そんなことあるわけないじゃん! 妹は喧嘩腰な口調でそう言った。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!