すきにして2

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              五 課長の鍼治療を行う日になった。 この日は、梅安の好意で治療院は午後から休診となっていた。 集合時間は一時と決まり、雅に純とネネ、それに梅安が集合時間前に治療室に集まった。 しかし、阿部課長だけが現れない。 もう少し待ってみようと雅がみんなの怒りを抑え込んで十分ほどが過ぎたころ、阿部課長がかつらをかぶり、真っ赤な口紅、長いつけまつげの女装姿で現れたのである。 相変わらず首輪は巻かれたままだ。 「ごめんやでぇー、化粧に時間がかかってしもうてなぁ」 課長の言う通り、化粧はかなり厚い。 美しくなりたいという思いが化粧を濃くしているのだろう。 だが、どうみても女性には見えない。 品のいいおかまというのが精いっぱいだ。 「遅いじゃないですか」 文句を言おうとした雅であるが、女性ホルモンを出そうと懸命に取り組んできたことが分かるので遅刻については大目に見ることにした。 「とりあえず始めましょう。課長、早く治療着に着替えてください」 「へぇ、わかりました…… けど、みんなの前で着替えるんどすか?」 雅たちの前で女の服を脱ぐのが恥ずかしいのだ。 「何してるの!」 もどかしい動作にイラッときた純がハイヒールの踵を床に打ち付けた。 カツーン!と音がして、課長の体が硬直する。 「ハイー!」 課長は慌てて服をぬぎ下着姿になった。 どこで買ってきたのかブラジャーをつけている。パンティはピンクのTバックだ 「下着も脱ぐんだすか?」 「全部、脱いでください」 梅安がきっぱり言いきった。 課長は恥ずかしそうにブラをはずしたが、Tバックはなかなか脱ごうとしない。 「早く脱ぎなさい!」 純が今度は声を上げた。 「ワン!」 思わず出た課長の返事に雅と梅安が顔を見合わせる。 課長はおずおずと恥ずかしそうにパンティを脱いだ。 エステでハートマークに刈り取られたアンダーヘアーがピンクに染まっている。 みんなは思わず目をそらした。 「すいません。それ、なんか首輪のようですが、はずしませんか……」 梅安が課長の首輪を見て尋ねる。 「安心してください。これはネックレスです」 「ペットの遺品なのかな?」 「ウ~ ワンワンワン」 課長がオオカミのように吠えた。 驚いて梅安が目を見張る。 さすがに首輪については答えたくないのだろうと感じた梅安は、それ以上何も言わなくなった。 「仰向けに寝てください。まずは全身の経絡治療から始めていきます」 と宣言し、課長の両手両足に手際よく鍼を刺してゆく。 課長は気持ちよさそうだ。 鍼を打ち終わると、十分間ほど置鍼して様子を見る。 「どうですか、痛くないですか?」 「気持ちよろしいおますぅ」 課長は眠たそうだ。 置鍼の間に、梅安は今回の治療方針を課長に説明する。 「今回は、男性ホルモンのテストステロンを女性ホルモンのエストロゲンに変化させようとする試みです。よろしいですね」 「はい、エストロゲンがバンバン出るとうれしいわぁ」 「まずは、精巣つまり睾丸に刺激を与えて、ありったけのテストストロンを放出させます」 「ワテに男性ホルモンなんか残ってますやろか?」 「少ないかも知れませんが、やってみましょう」 「その後、前立腺マッサージを行い、M性感を感じてもらいます」 「M性感って、なんですのん?」 「男性にマゾのような感覚を覚えてもらう性感技法なのですが、今回は前立腺マッサージで女性になった気分を味わってもらいます」 「はぁ……? 女性……?」 「そうです。肛門に指を挿入し、奥にある前立腺を触診するのです。普通の性行為の女性役をあなたが演じるのです。肛門を女性の膣だと思ってください。指が挿入されることであなたは女性の気分を味わうのです。その気持ちがあれば、テストストロンは女性ホルモンに変化するはずです。思いっきり女性になって感じることが大切ですよ。よろしいですか?」 「ほぉー、す、すごい。わわかりましたえ、思いっきり女性でいきますわぁ」 「それでは、施術を始めます」 梅安は腕と足に刺した鍼を抜き、へそ下指四本分の所にある関元というツボを刺激する。ここを刺激すれば精力絶倫になると言われているツボだ。 ゆっくりとツボ押しを続けた梅安は 「どうです。感覚が変わってきましたか?」 と尋ねる。 「なんか、タマタマちゃんが、燃えてるような感じどす。ズキズキ、ムラムラしてきましたわ」 「いい兆候です。テストストロンが出始めたんですよ」 「ワテにも男性ホルモンがおましたんやなぁ…… なんかうれしいような悲しいような不思議な気分だすわ……」 女装している男の気持ちは複雑で自分にはわからないと梅安は思うのだった。 しかし、今は邪念を持つ時ではない。 テストストロンを絞り出すことに集中すべきだ。 そうと決めると梅安は課長の睾丸をギュッと握り締める。 「うっ、うっ、いや~ん」 胸まで上がってきた痛みに、たまらず悲鳴を上げる課長だ。 「がまんしてください。タマタマを上げたり下げたりすることで、睾丸を上からつっている睾挙筋を鍛えるんです。違和感があるでしょうが、今は我慢です」 苦汁を浮かべ、額から汗を垂らす課長だ。 梅安は指で睾丸をはさみ一個ずつ上げたり下げたりを繰り返す。 「うう~、うう~」 課長が奥歯をかみしめ痛みをこらえている。 この施術が効果的なのかどうか梅安自身もわからない。 ただ、これで男女ホルモンの変換が実証されたなら、LGBTQの人たちに朗報を届けることができる。 梅安は真剣にそう思うのであった。 「どうやら、テストストロンは出尽くしたようですね」 「ほんまに、もう堪忍しておくれやす」 課長の目には涙が浮かんでいた。 「わかりました。それでは、これから男性ホルモンをエストロゲンに変えていきます。うつぶせになってください」 課長がうつぶせになる。梅安は手袋をはめ肛門の触診を始めた。 「ゆるんでますねぇ」 「え~ ゆるんでますかぁ? やっぱりや、クリッチに何発もやられたからなぁ」 課長の愚痴りを聞いて、雅は課長と栗田部長はやっぱりできていたのだと確信したのである。 「とにかく、力を入れて肛門を閉めてください」 梅安に言われ、課長は思いっきり力を入れるのだが隙間は埋まらない。 「う~ん、今回は指二本でマッサージを行います」 当初の予定を変更し、梅安は指を一本追加した。 「え~、二本も入れるんだすかぁ。いや~ん、もう……」 と言いながらではあるが、課長の尻はゆっくりと上下運動を始めていた。 梅安はワセリンを肛門に塗り込み、中指と人差し指の二本をずぶずぶずぶと肛門の中に挿入する。 「う~ん、い、い、……」 「痛いんですか」 「いい~、いいのぉ~」 「なんだいいんかい!」 梅安は指をさらに付け根まで挿入する。 「うお~、うう~」 課長の声が大きくなる。 付け根まで差し込んだところで指が曲がる。 梅安の指に前立腺のボコッとした感覚が伝わってくる。 ゆっくりとその部分を押したり撫でたり繰り返す。 「あはぁ~ あはぁ~ いきそうだすぅ」 課長が両手で口を押える。 課長の男性器は大きく反り返っていた。 まだテストストロンが脳内を支配していると見た梅安は 「女性の気持ちになってください。男性に性器を挿入されていると感じてください」 と声を上げた。 ここからが本番だ。エストロゲンに変換できるかどうかは、ここにかかっているのだ。 梅安の指は、猛烈な速さで動きだす。 「君はできる。女性になれる。女性になるんだぁ!」 真面目な梅安にしては珍しく、箱根駅伝の監督のように大声を出して課長を激励する。 「はいぃ~、ワテは女だす。女でおますぅ」 課長の腰が動きを早めた。 クライマックスはもうすぐだ。 そのときだった。突然、梅安の手が止まったのだ。 指に集中していた梅安は課長の尻しか見ていなかった。 女装している課長だからと安心していたのだ。 ふと目を上げると、まさかが起きていた。 なんと課長は自分の男性器を手でしごいていたのだ。 「裏切者! それじゃ、男性ホルモンでいくことになるじゃないか!」 思わず課長の手をつかもうとした梅安であるが、片手が肛門の中にあって片手だけでは課長の手を押さえつけられない。 梅安にダメ出しを食らっても、課長の手は動き続けていた。激しさが増していた。 「いくぅ~! あ、止めんといて、もっと動かしてぇ!」 と課長が叫んだとき、雅が慌てて課長の手をつかんだのだ。 間に合った。 課長の男性根は、まだビクンビクンとして自身の腹を打ち付けていたが、いってはいなかった。 「だめじゃないですか! 男性ホルモンでいってしまうでしょう!」 雅も声を上げて注意したが。課長は放心状態に陥っている。 まったく! なんて野郎だ! と思う雅だったが、ふと見ると純が目に入った。 そうだ、根本さんに頼もうと思いついたのだ。 「悪いけど、課長の手を縛ってほしい」 前回課長を縛り上げた純のことを雅は思い出したのだった。 断られても仕方がないと思ったが、今ここでは他に方法がない。 対応策はこれしかないのだ。 切なる雅の願いに純は承諾した。 「拘束用の縄がありませんか?」 純が梅安に聞いた。 「ボンデージテープなら治療用に使うのでありますけど……」 と梅安がとっさに答える。 「それそれ、それだぁ」 と雅は言ったものの、なんでそんなテープが治療に必要なのか釈然としない気持ちがこみ上げてくる。 そんなことを考えている場合ではない。時間がないのだ。 雅は梅安からテープを受け取ると純に手渡した。 純は治療台にうつぶせになっている課長の両手を後ろ手に素早く縛る。 「うう~、純さんだすか、すんまへん。思わずいってしまいそうになったんどす」 「ばか! 女性の気持ちでいくのよ。あとで梅安先生に変わってお仕置きよ!」 「はい~ いやワン~」 後ろ手に縛られた課長は顔と両足に力を入れ腰を浮かせた。 梅安の指の挿入をまっているのだ。 いよいよ、施術が再開する。 指二本だと女性の気持ちになれないと見た梅安は、更にもう一本指を加えることにした。 指三本で肛門に挑戦するのだ。 ずぶずぶずぶと三本の指が肛門に差し込まれる。 指が根元まで入ったところで指を曲げる。 「強烈ですやん~ はぁ、はぁ、けど、ええ、ええわー」 課長が再び声を上げ始めた。 指の動きを速めると叫びが激しくなる。 「あぁ、お願いやぁ、叩いておくれやすぅ」 課長の本性が顔を出した。M性感が現れたのである。 「根本さん! 申し訳ない。課長の願いをかなえてやってもらえるか?」 ここで不発に終わっては、何の成果も出ない。 雅は必死に頼み込んだ。 「わかりました」 純はバックの中から鞭を取り出したのだ。 「なんで鞭持ってるの?」 思わず声に出そうなった雅であるが、それはこらえた。 純が鞭を持つと腰やら背中やらに鞭を振り降ろす。 治療室にパチンパチンと音がこだました。 梅安は指三本を激しく動かした。 腰を激しく動かし首を思いっきり振り回す課長だ。 あまりの激しさにかつらがふっとび禿げ頭が露出した。 化粧は汗で半分が解け始めていた。 「ぷひゃぁ~ ぴくぅ~ はひゃ」 訳の分からない言葉を発しながら課長が絶頂を迎えようとしていた。 厚化粧の頭の禿げたオヤジが治療台の上で後ろ手に縛られ、鞭打たれ、肛門に指を挿入され興奮している光景は、よほどのゲテモノ食いでなければ耐え切れない。 あまりにもグロテスクな光景に雅とネネが立ち上がり、部屋を出ようとしたときだ。 「クリッチ~ 愛してるぅ~ いくぅ……」 と雄たけびを上げ、失禁と同時に課長は果てたのだった。 梅安も含め全員があわてて外に避難した。 あまりにも破廉恥な出来事に全員が吐きそうになっている。 外の新鮮な空気を吸いこみながら雅は思う。 普通の人達に囲まれて仕事をしたい。 女性ホルモンなんかどうでもいいと思うのだった。                     (了)
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