念願のお花見

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 ―――あれ?真っ暗だ。あ、向こうに光が見える。  ほわっと柔らかな光が2つ、闇に浮かんでいた。  私はそれに向かって走った。  そこには着物を着た沢山の人が、顔を伏せてシクシクと泣いていた。  ―――あ、あの…どうかしましたか?  私が声をかけると、豪華な着物をきた女性がこちらを向いた。  (あれ?この顔、ウチのお雛様だ)  驚きはしたが、不思議と恐怖は無かった。 「お願い、まだ仕舞わないで」彼女は泣きながら訴える。  ―――いや、だって、もう3月も終わりなのよ?桜が咲くまでには仕舞いなさいっておばあちゃんも言っていたし! 「そう、その桜が見たいのじゃ」とお内裏様そっくりの男性が立ちあがった。 「所によっては葉桜の頃まで仕舞われんと聞く。私達も本物の桜が見たい」  確かに雛段飾りには偽物の桜が飾られているし、旧暦のひな祭りは4月3日だと聞いたことがある。 「満開の桜はまるで異世界のように美しいと聞く。散りゆく花弁は儚く切ない気持ちになりながらもいつまでも眺めていられるものだと聞く。私達もそんな桜が見たい」イケメン顔の左大臣が私に迫る。  ―――えーっ…。わかったわよ、今年だけよ。だけどいつ桜が咲くかなんて知らないわよ。今年は開花が遅れているっていうし…。 「大丈夫じゃ。この雨は仕舞われんようにと、わらわ達が降らせておったもの。雨さえ止めばすぐに暖かくなり、咲くじゃろう」とお酒も飲んでいないだろうに赤い顔をした右大臣。  ―――はぁっ?雨が続いて寒いんですけど!?洗濯物、乾燥機かけるから電気代馬鹿にならないんですけど!?約束するから、絶対晴れさせて!!  ……そんな夢を見た。
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