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2. 腐ったご縁にグッバイ
祭り前夜、届くのを心待ちにしていたその浴衣を、鏡の前で着ていたのはタメの従姉妹・小田切紗代だった。
「それ……」
「えっ? 本当に愛ちゃんのだったの? 心当たりがなかったからショップに問い合わせたら、電話で注文されたって言うからびっくりしちゃって!」
チワワみたいに首を傾げ、すっとぼける紗代。
「居候の身でネットをお借りするのは気が引けたもので」
私の嫌味は彼女に通じなかったらしい。
「てかこれ、CMでやってたチェーンのでしょ? これなら荒川さんの店ので良くない? こんな山奥まで配達させて、疲れ切ったドライバーさん見たって内田のおばさんが……」
身内ネタ満載で耳障りな紗代のお喋りから逃れたくて、私は財布から1万7千円を出す。
「はい。お代」
「いいよいいよ、お母さんが立て替えたみたい。叔父さんの口座から貰っとくって。手間賃込みで♪」
突然の事故で死んだ両親が残してくれた遺産を持ち出され、心底ムッとしたけど、悔しがる姿を紗代に見せたくなかった。
「脱いでくれる? 明日着たいから」
その一言を待ってましたとばかりに、紗代はわざとらしく手で口を覆い、オーバーに間を取って話す。
「もしかして……光輝君と? あのね、ごめんね? 光輝君、明日は私と行きたいんだって。浴衣、もったいないよね? よかったら、私が着てあげるけど?」
演技っぽく眉を下げ、手を合わせる紗代。
はいはい、いつものやつね。紗代は両親を亡くした私を憐れむフリして、チャンスを奪っていくんだ。
◇◇◇
今思えば仕方ないよね。根が腐ってたんだもの。
お似合いよ、そのどろどろの姿も、お隣のずるずるの彼ピも。
でも、私がなけなしのお年玉貯金で買ったその浴衣は、全然似合ってない。
私は紗代ゾンビの左を全速力で追い抜きがてら、ほどけかけた彼女の浴衣の帯を引っ張った。
紗代はバランスを崩し、光輝にもたれかかるように倒れた。
光輝も浴衣もあげるわ。餞別よ。
どうせ高校卒業したら、おさらばするつもりだったもの。こんな狭っ苦しい村ーー。
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