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4人の間に横たわった、僅かな沈黙。
最初に破ったのは俺だった。
「岸野様」
カウンター越しに彼へと手を伸ばし、
そっと彼の手に自分の手を置いた。
「会社の規定でお客様との個人的な
やり取りは避けるように言われて
おりまして‥‥従業員を管理する
立場の私が破る訳にはいかないんです。
あなたの気持ちはとても嬉しかった。
それは偽りのない本心ですが、
どうしても叶えられないんです」
「川瀬さん‥‥」
彼の目から大粒の涙が溢れた。
彼らが帰った後、閉店作業をしながら
ぼんやり彼のことを考えていた。
付き合いを断ったとはいえ、
彼の行く末はとても心配だった。
秋津と宮嶋の言葉の中に
好みのタイプを
お持ち帰りしているという件があったが、
他人を信用するが余り
易々とカラダを開いていたら、
怪我をさせられたり事件に巻き込まれたり
するリスクがあるだろう。
見た目、かなり儚そうだったし、
被害があってからでは手遅れになる。
いつも秋津や宮嶋が守っているとは
思えないし‥‥今夜は大丈夫だとしても
今後が心配でたまらなくなった。
「佐橋さん、すみません」
ポケットに束になって入っていた鍵を再び
取り出すと、迷うことなく金庫に向かった。
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