前編

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「川瀬さん、どうかしました?」 ハッと我に返ると、心配そうな表情で 宮嶋が俺の顔を覗き込んでいた。 今は開店に向けての準備中。 氷が足りるか確認するために製氷機の扉を 開け、そのままの姿勢でぼんやりして しまったようだ。 「ああ、ごめん。大丈夫、何でもない」 あれから彼とは頻繁に連絡を取り合い、 お互いの家を行き来していた。 先月の満月の晩、彼の望みのままに 朝まで抱き合った。 それ以来、会う度にどちらかの家で 朝を迎えている。 まるでもう半同棲のような状況、 2人では買い物に行かないようにしているが いつかは誰かに目撃されてしまうだろう。 今夜は満月。 彼の衝動が大きく弾ける夜だ。 どういう風に、彼を抱き潰そうか。 どんな風に触れたら、 悦びの余り、咽び泣いてくれるのか。 朝からそんなことばかり考えていた。 彼と結ばれる夜は、 お互いが満足できるものにしたい。 「川瀬さん、立て看板置いてきますね」 溌剌とした宮嶋の声を聞きつつ、 吉川と笑顔の最終チェック。 今夜も無事に開店。
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