前編

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「川瀬さん、ちょっとお話したいことが」 出勤して早々に後輩アルバイトの大学生、 宮嶋恭介に呼ばれ、 店の近くの事務所で話を聞くことになった。 宮嶋は理性的でとても真面目、 3歳年下だがしっかり者の得難い存在だ。 既に就活は終わっていると聞いているが、 シフトのことだろうか。 宮嶋に椅子を勧め、2人で座った。 「川瀬さんにこんなことを相談するのは かなり抵抗がありますが」 「何でも話して。内容によっては他言しない」 「ありがとうございます‥‥実は俺の彼氏の 秋津昌美が、後輩をここに連れて来たいと 言ってまして」 「別にいいよ?後輩くんもゲイでしょ、 問題ないよ」 「はい。確かに秋津の後輩はゲイですが、 ややマナーが悪い子なんです‥‥」 「何、酒飲んで暴れるような子なの」 「いえ、俺も会ったことはあるので それはないんですが、その、男漁りが」 「なるほど‥‥ここは出逢いの場ではあるけど 見境のない誘い方をして静かにしていたい お客様に迷惑をかけるかも知れないって?」 「そうなんです、うちの雰囲気に合わない 可能性があるので秋津に即答できなくて」 「お客様はお客様だから、基本的には こちらは拒めない。実際にお会いしてみて よっぽどひどかったらお帰りいただく。 俺が見極めるから、宮嶋は安心して? ただ、俺のシフト休みに重なったら困るから 事前にこの日に来ますと言って欲しいけど」 「ありがとうございます。それはもちろん」 宮嶋は心からホッとした様子を見せ、 大きく何度も頷いた。
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