後編

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その人は突然、僕の目の前に現れた。 「岸野様」 街中で声をかけられるにはかなり堅苦しい その呼び方に、僕は瞬時に身を固くした。 「ああ‥‥申し訳ありません、私、川瀬の 店の責任者をしている佐橋と申します」 「え」 まさか。 二の句が告げない僕に佐橋は微笑むと、 お話したいことがありますので、 お時間いただけますかと言葉を続けた。 「学校の帰りでしたか」 開店前の事務所の中。 当然僕と佐橋以外は誰もいない。 「単刀直入にお尋ねしますね。川瀬とは お付き合いしている、間違いありませんか」 「‥‥どうして、わかったんですか」 何と答えればいいのかわからず、 そう答えた。 佐橋は僕に椅子を勧め、自分も座った。 「川瀬のファンで常連のお客様から連絡が 入りました。川瀬の家から店で見たことが あるあなたが出てくるのを目にしたと。 心当たりはありますよね」 「‥‥はい」 この店を訪れたのはあの日だけだったのに。 確かに僕は最後まで居座り、 悪目立ちをしていたかも知れないが。
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