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その人は突然、僕の目の前に現れた。
「岸野様」
街中で声をかけられるにはかなり堅苦しい
その呼び方に、僕は瞬時に身を固くした。
「ああ‥‥申し訳ありません、私、川瀬の
店の責任者をしている佐橋と申します」
「え」
まさか。
二の句が告げない僕に佐橋は微笑むと、
お話したいことがありますので、
お時間いただけますかと言葉を続けた。
「学校の帰りでしたか」
開店前の事務所の中。
当然僕と佐橋以外は誰もいない。
「単刀直入にお尋ねしますね。川瀬とは
お付き合いしている、間違いありませんか」
「‥‥どうして、わかったんですか」
何と答えればいいのかわからず、
そう答えた。
佐橋は僕に椅子を勧め、自分も座った。
「川瀬のファンで常連のお客様から連絡が
入りました。川瀬の家から店で見たことが
あるあなたが出てくるのを目にしたと。
心当たりはありますよね」
「‥‥はい」
この店を訪れたのはあの日だけだったのに。
確かに僕は最後まで居座り、
悪目立ちをしていたかも知れないが。
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