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次の瞬間。
派手に開かれる玄関ドアの音とともに。
「葵っ!」
血相を変えた川瀬が警察官を連れて現れた。
「川瀬くん♡」
男が川瀬に気を取られたその隙に、
僕は男の股間を蹴飛ばした。
「い‥、ったあ‥‥!」
悶絶し、その場に転がる男を擦り抜け、
僕は川瀬に抱きついた。
警察官にしょっ引かれる男の後ろ姿を
川瀬と見送り、息を吐いた。
「アレが由貴のファンなの、すごい人だ‥‥」
「本当にごめん‥‥葵にまで迷惑かけて」
「もう大丈夫。あのさ、今日佐橋さんに」
「うん、俺も佐橋から話を聞いたよ。
葵、俺と別れますって言ったんだって?」
「だってそう言うしかなくて」
「実は宮嶋から佐橋に直談判があってさ。
俺をこの店から外すなら、今いる従業員は
全員辞めますけど大丈夫ですか?ってね」
「えっ」
「うちは俺を含めて、従業員は5人だからね。
人柄重視で選んできてギリギリのやり繰り
だから、その人たちが全員辞めたらうちは
立ち行かなくなる。さすがの佐橋さんも、
今回は降参」
「‥‥じゃあ」
「うん。俺と葵が別れられる訳ないじゃん」
川瀬に抱きしめられ、心から安堵した。
「宮嶋さんを始めとしたスタッフに感謝だね」
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