前編

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「川瀬さん、今夜はよろしくお願いします」 「大丈夫。何時に来るって?」 「22時です」 宮嶋とロッカー室で制服に袖を通し、 革靴に履き替える。 「その子の名前、教えてくれる?」 「岸野くんです。岸野葵」 「了解。いつものように会員証作るよ。 秋津くんは2度目だよね」 「そうです」 「じゃあ開店準備しよう。今夜は貞方様が お見えになるからね」 常連の30代後半のお客様の名前を口にし、 仕事モードへと気持ちをシフトしていく。 今夜は金曜日、きっと忙しくなる。 20時の開店と同時に カウンター席は全部埋まってしまい、 せっかくお越しいただいた一見のお客様を お断りして、2時間が経とうとしていた。 「もうそろそろ、席を開けておきます」 ちょうどお帰りになった2名様の席を 消毒しながら、宮嶋が言った。 「岸野様に書いていただく会員カード、 用意するよ。生年月日がわかる身分証は 持って来てくれるんだよね」 「はい。秋津が案内してます」 その時、チリンとドアの鈴が鳴り、 2人の若者が店に入って来た。
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