3.立場

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 ……分かっているというのなら、なぜ、あの日の紘は、私と松隆の仲が良すぎると(とが)めたのだろう。私の紘への気持ちを疑っていないのであれば、私と松隆の仲が良すぎたからといって、紘が心配することはなにもない。そしてなぜ、いまはそれを咎めなかったのだろう。  私の気持ちが分かっているというのなら、分かったのは、一体いつからだったのか。紘は私の気持ちを疑ったことがなかったのだろうか。付き合ってからずっと、紘は私の恋情の向く先を確信し続けていたのだろうか。  確信し続けることが、できていたのだろうか。 「……紘、髪乾かしなよ」 「……あとで」  唇が、触れた。  でもそのキスには、奇妙な違和感があった。紘とキスなんて数えきれないほどしてきたはずなのに、まるで別人とキスしているような、そんな違和感。その違和感に思わず表情を変えてしまったけれど、キスの瞬間にお互いに目を閉じる慣行が幸いした。 「……今日生理」  ゆっくりと身体を押し返す。 「そんな時期だっけ」 「ちょっとズレたっぽい」 「キスくらい、いいじゃん」 「したくなったら困るから」  したくなったら、困る。だってさっき感じた違和感の正体は──……。 「ちぇっ」  拗ねたように起き上がった紘がドライヤーを手に取る。その体の向こう側にあるスマホにもう一度視線を向ける。 『ちゃんと愛されてるって分かってよかったじゃーん』  沙那の松隆へのお気に入り具合は、どの程度だろう。
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