4.懸念

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4.懸念

 お盆過ぎ、サークル帰りに松隆と烏間先輩とご飯を食べていたとき。 「おつかれさまでーす」 「お? おつかれ」  紘と茉莉と沙那が同じお店に入ってきて、烏間先輩に挨拶をした。つられて私達も顔を上げ「あ、おつかれ」「おっす」「おつかれさまー」なんてやりとりをした。沙那が「松隆くんじゃーん!」と黄色い声を上げたけれど、松隆は「お疲れ様です」と貼りついた笑顔で流した。 「大宮と津川はあれだけど、富野は珍しいな」烏間先輩が奥に案内された3人に視線を向けながら「仲良かったっけ」 「合宿で仲良くなったみたいですよ。紘の地元と、茉莉が昔住んでたところが近かったとかで」  その話は紘から聞いていたので、平静を装うことは簡単だった。 「へーえ……」 「大宮先輩と津川先輩はもとから仲が良いんですっけ」 「2回生になってから、まあまあ仲良いよな」 「まあ……そうですね」  沙那と紘が出かけることに一抹(いちまつ)の不安はあったけれど黙っておいた。 「松隆、津川の苦手は克服したのか?」 「あの苦手、克服する必要あります?」 「違いない」  お腹でも抱えてげらげらと笑い出しそうな様子だった。私も、沙那に聞こえていないのをいいことにちょっと笑ってしまう。 「なにがそんなに苦手なの?」 「え、顔ですかね……」 「こっわ! 女の先輩の顔が苦手とかいうの!?」 「語弊(ごへい)がありました、言い方を変えます。あの品のない顔つきが苦手です」  沙那たちが座った席を見ようともせず、松隆はしかめっ面をした。 「なんというか、人のステータスに食いつくタイプな気がするんですよね。出身とか、家柄とか、将来性とか。選民思想が透けて見えるっていえばいいんでしょうか」 「今の彼氏も医学部だし?」 「彼氏が医学部なのか、医学部だから彼氏なのか、難しい問題ですね」 「でもステータスを高めるのは異性にとっての自分の価値を高めたいからだろ? 別にいいんじゃね、ステータスで付き合う女でも。当人が納得してるなら」 「それでも、僕は品がないと思うのでイヤです。まあ、他にも色々とありますけど……ただの好みの問題ですよ」
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