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ふーん、と頷きながら店の奥に視線をやった。四人掛けのテーブル席で、紘と沙那が隣同士に座り、紘の前に茉莉が座っている。松隆の言うことは分からなくはなかったけれど、どちらかというと、沙那の彼氏がコロコロ変わることのほうが私は心配だった。彼氏がコロコロ変わるということは、それだけモテるということだから、紘が沙那と仲良くなって、沙那を「いい」と思う可能性はなくはない。
ただでさえそんな懸念があったのに、最近、紘は茉莉とも仲が良いのも懸念事項だ。特に、紘が茉莉の(少なくとも)容姿を気に入っているのは事実だ。
とはいえ、「可愛い女の子が出てくるたびに嫉妬するのか」なんて自問すれば、嫉妬に近い心配は少し大人しくなる。そんな嫉妬が格好悪いだけではなくて、非常に馬鹿馬鹿しいものであることは分かっていた。
「さーて、松隆、飲みに行こうぜ」
「いえ、今日はやめときます」
「空木は来るぞ」
「何も言ってないじゃないですか。行きませんよ、この後、紘が来るらしいんで」
紘がお店に着く前、LINEにそう連絡が入っていた。まさか沙那と茉莉と夕飯を食べてから来るとは思っていなかったけれど。
「つれない後輩たちだな」
「彼女さんにでも会いに行っててください」
「いま合宿中なんだよなあ」
「彼女に遊んでもらえないから後輩に遊んでもらってたんですか……」
「僕らはしょせん彼女がいない間の暇つぶしなんですね」
「急に噛みついてくるじゃん、なんなのお前ら」
席を立ちながら、紘達のテーブルに視線を向ける。紘は茉莉のほうを向いて楽しそうに喋っていた。
本当に、楽しそうに。そんな紘の挙動に後ろ髪を引かれながら、お店を出た。
「生葉先輩と大宮先輩って、本当に全然一緒にいないんですね」
お店を出た後、烏間先輩とも別れた後で、松隆が不意にそんな一言を漏らした。
「……そう?」
「家とかには来るんでしょうけど。大学では一緒にいるのを見かけないなと」
「まあ……学部違うし、サークルで仲良いメンバーも違うし」
「僕とは学部も学年も違うじゃないですか」
「そりゃ松隆は可愛い後輩ですから」
「はは、どうも」
「なに今の渇いた笑い声。馬鹿にしてるでしょ」
持っていた傘で松隆の足を叩くふりをした。
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