4.懸念

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「……松隆、コートかけようか」 「ああ、いえ、大丈夫ですよ。自分でやるんで」  グレーのマフラーと、ダークネイビーのピーコート。それを脱ぎながら、松隆は私の手からハンガーを受け取った。 「久しぶりですね」 「え?」  さっさと座って知らんぷりをしてしまおうと思っていたのに話しかけられて、戸惑いのあまり大きな声が出た。でも松隆のほうこそ知らん顔だ。 「最近、サークルも来ないんで。随分長い間会ってないなと思いまして」 「……まあ、冬期講習が忙しかったから」 「それはまあ、そうなんでしょうけど」  他に理由があるんじゃないですか? そう聞こえた気がしたけれど無視した。  松隆は烏間先輩の隣に収まった。茉莉の隣、松隆の前には1回生の馬口が座った。 「今年も1年、お疲れさまでしたー!」  広い座敷で、部長が声を張り上げる。グラスを掲げ、「カンパーイ」という音頭(おんど)に合わせて唱和(しょうわ)した。  紘は、私とは2つ離れたテーブルに座っていた。テーブルのメンバーは男ばかりだった。 「はぁーっ、今年も終わったぁ」  丸太先輩が生ビールを飲み干し「ぷはぁっ」と男らしく息継ぎをする。烏間先輩のほうが大人しい態度でビールを飲みながら「まだ2週間ちょいあるだろ。でも終わりだなあ」と頷いた。 「今年は忘年会じゃなくて忘()会やわ。なんもかんも忘れることにした」 「なにかあったんですか?」と茉莉。 「彼氏にフラれたんだって」と烏間先輩。 「クリスマス目前に乗り換えられたわ、ほんま腹立つ」  ダンッと丸太先輩は空っぽのグラスをテーブルに叩きつける。烏間先輩が横からビールを注ぎ、丸太先輩は注がれたそばからグラスを空にする。忘年会はスタートからトップスピードだ。 「ただフラれるならええねん、それならまだ許せる。でも乗り換えはあかんやろ。どっかで付き合ってる期間被ってるってことやから裏切りやん」 「浮気相手、どんなだったんだよ」 「あたしと真逆でふわふわ可愛い系やったわ。しかも酒は弱い!」  (おく)せず切り込んでくる烏間先輩を睨みながら、丸太先輩は苦々し気に言い放った。丸太先輩は黒髪でショートカット、しかも身長は170センチ近く、自他ともに認めるサバサバ系で、その性格にぴったりな酒豪だった。
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