4.懸念

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「でもほんまにめっちゃ顔いいやんな。彼女作り放題やん」 「彼女ってそんなに大量に作るもんでしたっけ」 「いやでも、マジ、僕もそれは思ってたんすよ!」馬口がすかさず食いついて「コイツ、マージで女子に興味示さないですからね! もしかして山科とデキてんのかなってくらい、マジで興味がない!」 「まさか。ちゃんと興味は示すよ」 「え、じゃあどんなんが好みなん」 「えー、まあ、話が合う人ですかね……」 「そんなんいくらでもおるやろ、絞れてないで」 「松隆、幼馴染いるんじゃないっけ」  その言葉が口をついて出てしまい、テーブルのメンバーの顔が一斉にこちらを向いた。当人の松隆と烏間先輩は目を点にし、馬口に茉莉、そして丸太先輩は格好の酒の(さかな)に目を輝かせた。 「もしかして幼馴染にずっと片想いしてる!?」 「マジその世界線に生まれてぇー!」 「一途やわあ。顔がイケメンで中身もそんなイケメンでどうすんねん」 「僕、何も言ってなくないですか?」 「幼馴染って、この間、浪速大の学祭に一緒に行ってたヤツ?」  ニヤニヤしながらそんな助け船を出したのは烏間先輩だ。「なにそれ?」と丸太先輩が身を乗り出す。 「浪速大の学祭行ったら、松隆に会ってさ。幼馴染と一緒に来てたんだよ。それかなと思って」  浪速大学の学祭に幼馴染と一緒に行った、その幼馴染のお兄さんが浪速大学だから、その幼馴染には夏休みにも会っていた──どれも松隆の口から聞いたことがある話だった。  イヤな情報をバラされたと思ったのか、松隆は顔をしかめる。 「烏間先輩……」 「どんな子? 可愛い系?」 「まあ、可愛い系では?」 「お前イケメンのくせに可愛い幼馴染までいるのか!」 「料理上手なんじゃないの」また、その幼馴染について知っているだけの情報が口をついて出てしまって「家事か料理かにうるさい幼馴染がいるって言ってたじゃん」  途端、じっと松隆に見られた。その探るような目に身構えたけれど、松隆は何も言わず……。ただ馬口が「うらやましい……」と呟いただけだった。丸太先輩が「え、で、どうなん、料理上手な子のことなん?」と促す。 「いや、まあ、その幼馴染ですけどね……」 「マジか。なんで落とせへんの。もう彼氏おるん」 「いやいないですけど」 「松隆の顔なら押し倒したら楽勝やろ」 「丸太先輩、品がない」 「お上品な顔立ちしてるもんな、松隆」 「そういうことじゃないでしょ」  松隆は私を見ない。ただ、私が話していないから、私を見ていないだけ。  それなのに、まるで顔を背けられているかのような気がしたのは、気のせいだろうか。  そこから暫く、鍋をつつきながら、年内の出来事のあれやこれやを忘年会らしく振り返った。酒豪の丸太先輩がいるせいでテーブルの酒は進み、烏間先輩でさえうっすらと顔を赤くするほど飲んでいた。たまに喜多山先輩が乱入して更に酒を勧めていた。
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