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松隆は溜息を吐いた。ほら、早く別れないから、遅かれ早かれそのくらい予想できただろうに、そう呆れ果てているのが手に取るように分かった。
「……忘年会が終わってから、別れようと思ってたんだ」
だから「ちゃんと別れるつもりだったんだよ」と言いたかった。言い訳じみていると分かっていても、そう言わずにはいられなかった。
「忘年会が終わった後に、別れて、年末年始を冷却期間にすればいい。ついでに、その間にサークル内で別れたことが広まればいいなと思って」
誰かが地雷を踏むのは避けるべきだ。だから忘年会の直前で別れるのは避けようと思った。ついでに、忘年会が終わってしまえば、すぐに授業も終わり、冬休みに入る。そうすれば、みんなが、私と紘は別れたのだと知るための期間は、たっぷり2週間ある。つまり、冬休みは冷却期間になると同時に拡散期間にもなる。
なんなら、年が明けたら、すぐに1年記念日がやってくる。それまでにはなんとしてでも別れなければいけない。決心が鈍りそうだったから。
「……思ってたんだけどね」
忘年会が終わった後、次の日か、その次の日に、紘に言おう。なにもかも、タイミングはちょうどいい。年内の大掃除のように、紘との関係を年内にきちんと清算することができるのだから。
そんな風に思っていた。紘と沙那のキスを見るまでは。
「紘だって、このタイミングで別れを切り出されたら、さすがに『沙那とキスしてたからだ』って考えるでしょ。で、きっと、沙那にもそう話すでしょ。それが癪だなって思うんだよね」
紘が浮気をしているかどうかなんて、どうでもいい。紘の気持ちが茉莉にあっても私にあっても、もうそんなことはどうでもいい。
馬鹿馬鹿しい、と思ってしまった。松隆が「第2の富野先輩」といったように、誰かに振り回される紘に振り回されるのが馬鹿馬鹿しいと気付いてしまった。
だからせめて、その馬鹿馬鹿しさゆえに別れるのだということくらいは分かってほしかった。紘が浮気をしていると考えたからではなくて、一緒になって振り回されることが馬鹿馬鹿しくなったからだと。
それなのに、タイミングを見計らっているうちにこの有様だ。涙は出なかった。代わりに溜息が出た。
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