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ほんの少しの沈黙が落ちいたとき、スルッと、少し離れた襖が開いた音がした。まさか紘──なんて焦燥と恐怖の入り交じった感情で様子をうかがえば……、座敷のほうからやってきたのは烏間先輩だった。
「座敷の外で喋ったら迷惑だろ。中入りな」
酔っているのが分かる、ほんのりと赤い顔。でも顔つきとは裏腹に、その声は静かで、アルコールに理性まで侵食されていないことは明白だった。
「そうですね。すみません」
松隆は肩を竦めただけ。そういえば松隆はシラフだった。
「先輩困らすなよ」
その松隆の肩を軽く叩いて促しながら「ほら、空木も。用事ないなら中入れよ」と顎で座敷を示す。松隆はすぐに廊下から消えた。
「……すみ、ません……」
「……あのさぁ、空木」
その様子をうかがった後、烏間先輩は──打って変わって申し訳なさそうな顔になった。
「……多分、俺もやりすぎた。ごめん」
一体、なんの話をしているのか。呆然と先輩を見つめながら「……まさか」と小さな声が零れた。
「……まさか、先輩が、沙那と……」
「いや、俺は津川とは関係ないよ」含みのある言い方を問いただす前に「関係ないけど。……ま、ちょっと手を出し過ぎたなと思って」
烏間先輩は、誰のなにをどこまで見ていたのだろう。
「……その罪滅ぼしってわけじゃないけど」烏間先輩はぐしゃぐしゃとその真っ黒い髪を掻き混ぜて「もし、サークルでお前らに何か言うヤツがいたら、そんなヤツは俺が黙らせてやる。俺が守ってやるから……、まあ、恋愛なんて、個人の自由なんだから。他人がとやかく言うことじゃない。好きにやれよ」
烏間先輩は、私と松隆のなにに気付いて……、なにを知っているのか。
「……先輩」
「うん?」
「……お願いがあるんですけど」
そんなことよりも、私自身が知らなければならないことがあった。
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