4.懸念

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 ほんの少しの沈黙が落ちいたとき、スルッと、少し離れた襖が開いた音がした。まさか紘──なんて焦燥と恐怖の入り交じった感情で様子をうかがえば……、座敷のほうからやってきたのは烏間先輩だった。 「座敷の外で喋ったら迷惑だろ。中入りな」  酔っているのが分かる、ほんのりと赤い顔。でも顔つきとは裏腹に、その声は静かで、アルコールに理性まで侵食されていないことは明白だった。 「そうですね。すみません」  松隆は肩を(すく)めただけ。そういえば松隆はシラフだった。 「先輩困らすなよ」  その松隆の肩を軽く叩いて促しながら「ほら、空木も。用事ないなら中入れよ」と顎で座敷を示す。松隆はすぐに廊下から消えた。 「……すみ、ません……」 「……あのさぁ、空木」  その様子をうかがった後、烏間先輩は──打って変わって申し訳なさそうな顔になった。 「……多分、俺も(・・)やりすぎた(・・・・・)。ごめん」  一体、なんの話をしているのか。呆然と先輩を見つめながら「……まさか」と小さな声が零れた。 「……まさか、先輩が、沙那と……」 「いや、俺は津川とは関係ないよ」含みのある言い方を問いただす前に「関係ないけど。……ま、ちょっと手を出し過ぎたなと思って」  烏間先輩は、誰のなにをどこまで見ていたのだろう。 「……その罪滅ぼしってわけじゃないけど」烏間先輩はぐしゃぐしゃとその真っ黒い髪を掻き混ぜて「もし、サークルでお前()に何か言うヤツがいたら、そんなヤツは俺が黙らせてやる。俺が守ってやるから……、まあ、恋愛なんて、個人の自由なんだから。他人がとやかく言うことじゃない。好きにやれよ」  烏間先輩は、私と松隆のなにに気付いて……、なにを知っているのか。 「……先輩」 「うん?」 「……お願いがあるんですけど」  そんなことよりも、私自身が知らなければならないことがあった。
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