52人が本棚に入れています
本棚に追加
23時過ぎ、年内最後の飲み会の熱気に包まれた軍団が、年末の冷たい風などものともせずに練り歩く。その中に静かに紛れ込んでいた私の背後から「ゆーきはぁー!」と酔っぱらった沙那がやってきて、肩を組んだ。上機嫌の沙那は、私がシラフであることなど気にも留めていないようだった。
「ゆきは、クリスマス、バッグ貰ったんでしょ?」
「ああ、うん。紘から聞いた?」
「聞いたよおー。でもって、茉莉にあげたのもバッグでしょ?」自分がリサーチに手を貸したくせに、沙那は白々しく「それって、生葉と茉莉の扱いが同じってことじゃん? 茉莉のこと大好きかよって。さすがに有り得ないでしょ」
きっと沙那は、いま喋ったことを、明日には覚えていないだろう。
「まあ。でも、紘は私に嫉妬してほしかっただけなんじゃない」
「茉莉と仲良くして? そおかなあ、誕プレにバッグってことは、本気になったんじゃない?」
でも、さすがの沙那も、きれいに口を滑らせることまではないから、言質をとるにしても、このくらいが限界だろう。
「さあ、どうだろう」
「てか、さあ、生葉、そろそろ松隆くんと寝た?」
沙那が、酔っぱらってくれていてよかった。そうでなければ、私の肩が震えたことに敏感に反応しただろう。
「まさか。紘と付き合ってるのに」
「別にいーじゃん、大学生のカップルなんてそんなもんでしょ」
私がそんな風に割り切れないと、沙那は分かっていたはずだ。
「でも、松隆くんはさあ、絶対手早いのに、全然手出してこないよね。マジ、松隆くんが酒飲まないの、もったいないなー。お互い酒飲めばどうにかなると思うんだけどな」
肩からするりと離れた腕を、視線だけで追う。上機嫌の沙那は、そのまま茉莉のところへ行った。茉莉の隣に、紘はいなかった。紘は、武田をはじめとした男友達の中に紛れていた。
「空木ィー、3次会行こうぜ、3次会」
今度は喜多山先輩だった。ドン、なんて衝撃がきそうなほど強い力で肩を組むあたり、本当に悪い意味で女子と思っていないのが分かる。
最初のコメントを投稿しよう!