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戻ってきた松隆から「どうぞ」「ありがと」と紅茶を受け取る。沈黙が落ちた。お茶でも飲まないかと電話をかけてきたくせに、松隆は用件はないのだろうか。
……違うか。私がなにかを話したいはずだと思って、連絡を寄越したのか。どうせお見通しなんだろうと思うと、昨日の夜のように笑えてきた。
「……昨日、忘年会の帰り、無事に紘と別れたよ」
隣の松隆が驚いた気配はなかった。まるで淡々と、仕事の報告を受けているかのような態度だった。
「最終的な理由は?」
「……話すと長くなるんだけど」
でも確かに、松隆は私から仕事を引き受けてくれていたわけだし、松隆にとっては仕事の報告で間違いないのかもしれない。
「……もし、私にとっての松隆が、実は紘にとっての茉莉だったら?」
「……どういう意味ですか? そうなるように、協力してくれって言いませんでしたっけ」
「うん、そう言った。でもそうじゃなくて。もっと分かりやすく言えば、紘は私と同じことをしていたんじゃないかって」
松隆の顔は「は?」なんて聞こえてきそうなものに変わった。次いで、馬鹿にしたように鼻で笑う。
「……そうだとしたら、大宮先輩はクソダサいですよ」
恋人の恋情が自分に向けられていると確かめる方法には、なにがあるだろう。少なくとも真っ先に思い浮かぶ、かつ簡便な方法といえば「異性との関係に嫉妬しないか確かめる」だ。
きっかけが何だったのかは分からない。松隆が迂闊にも推しメンを「空木先輩ですかね」と口走ってしまったことかもしれない。私からの呼び方が「松隆くん」から「松隆」に変わったことかもしれない。松隆からの呼び方が「空木先輩」から「生葉先輩」に代わったことかもしれない。私が「松隆とご飯食べてくる」と報告した回数が増えたことかもしれない。結びつけようとすれば、きっかけなどいくらでも思いつく。
「なんでそうだと思ったんです?」
「……学祭の日、たまたま、紘のスマホに沙那からLINEがきたのが見えたんだよね。『ちゃんと愛されてるって分かってよかったじゃーん』って」
紘のスマホ画面に表示されたメッセージを、一言一句違えず覚えている。あのメッセージは、妙に頭に引っかかった。
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