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「……でも、紘を陥れようとは考えてないって」
「考えませんよ」
「……私と紘が別れればいいとも思ってないって」
「ええ」
「……私を」一瞬詰まって「紘から奪おうと考えてるわけでもない、と」
「ええ、そうですよ」
頬杖をついたままの松隆は、悠然と微笑む。もう私の頭はパニックだ。
「……あんまり実効性がなさそうだけど……沙那がしっぺ返しを食らうところを見たかったとか」
「それは見たいですが、違いますね」
「……なに? 一体なに?」
せいぜい考えられる現実的な可能性は3つ。紘への嫌がらせ、私を弄ぶこと、そして……自意識過剰かもしれないけれど、私を紘から奪うこと。
しかし、自分を嫌いな紘への嫌がらせではない。それは早々に明言していたことだった。
更に、私への嫌がらせでも……ない、はずだ。松隆にそんな裏表はないはずだし、恨まれたり嫌われたりする覚えがない。
……自意識過剰かもしれないけれど、そうなると、残る可能性は、松隆が私を異性として好きで、あわよくば紘から私を奪おうとしているということだ。でも、松隆は度々その可能性を排するような言動をとったし、いまなお否定している。しかも……、なにより引っかかっていたのは、幼馴染の存在だ。私ではない誰かを好きである可能性をにおわせ続けていた。しかも烏間先輩が存在を確認しているのだから、ブラフではない。つまり松隆が私を好きである可能性は限りなくゼロに近い。
そうなると、排しきれないのは私への嫌がらせ……私を翻弄して楽しむことが目的だったとしか──。
困惑しきった私に、松隆はいつもの微笑を投げかけた。
「生葉先輩に僕を好きになってもらうことですね」
は? ……理解できない文字列に、たっぷり三拍、脳が止まった。
「なに言ってんの? だって紘から奪おうとは考えてないとか……」
当初ならまだしも、さっきまでそんな嘘を吐く理由はない。
混乱している私とは裏腹に、落ち着き払った松隆は紅茶を飲みながら「ええ、それは別にどうでもいいです」と首肯する。ということは、紘から私を奪わないことと、私に松隆を好きにさせることは両立する。……両立するということは? どういうことだ?
「一体どういう……」
「だって、生葉先輩を大宮先輩からとったって、意味がないでしょう。ただ流されたとかではなく、僕を好きになってもらわないと」
……なに? 松隆のセリフを矛盾なく整理しようとして……、思考回路が迷子になった。とるだけだと意味がないってなんだ。
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