5.浮気

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「同じ理由で、生葉先輩と大宮先輩がただ別れても意味がありません。だから僕は別に、生葉先輩を大宮先輩から奪おうなんて考えてないし、別れればそれでいいとも思ってない」  思考回路はまだ迷子だ。なんならもうすぐショートする。 「分かりません? 順序とか因果の問題ですよ。生葉先輩が僕を好きになった、その結果として大宮先輩と別れる。そうして初めて、意味があるんです」  ……私と付き合うという結果は必要ない? ただ私が松隆を好きになる状況が欲しかっただけ? これはいわゆる、(もてあそ)ばれるというヤツだろうか? 「……松隆。先輩で遊ぶのもいい加減にしなさい」 「遊んでませんよ、ちゃんと本気です」 「本気で(さく)(ろう)したとかそういうことを言うんじゃないでしょうね」 「違いますよ。本気で先輩が好きですって言ってるんですよ」  …………なに?  まただ。また、言葉が理解できずに脳がフリーズした。唖然とするあまり、時間が止まった気さえした。  松隆はただ、隣に座って、いつものように柔らかく微笑んでいる。……何かの冗談だ。冗談に違いない。そうでなければ、好きの意味が違う。そうだ、きっとそうに違いない。 「好きですよ、先輩」  それなのに、違うといわんばかりに繰り返されて、開いた口が、(ふさ)がらなかった。  考えた。もちろん考えた。松隆が私を好きな可能性だって考えた。だって浮気じゃない浮気をするなんて、そんなことに下心なしに協力するヤツがいるはずがない。でも松隆はそれを何度も否定したし、あたかも興味がないかのような口ぶりだった。だから違うんだと思っていたし、そう自分にも言い聞かせていた。 「……な……に、なんの冗談……そう、冗談でしょ、ドッキリで烏間先輩が出てくるとか」 「烏間先輩は僕が生葉先輩を好きだって知ってますけど」 「は!?」  そんなこと聞いてない! いや聞くはずないのだけれど。目を()く私とは裏腹に、松隆は少しだけ苛立ったように、先輩にしてやられたとでも言いたげに苦虫を噛み潰した。
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