52人が本棚に入れています
本棚に追加
「同じ理由で、生葉先輩と大宮先輩がただ別れても意味がありません。だから僕は別に、生葉先輩を大宮先輩から奪おうなんて考えてないし、別れればそれでいいとも思ってない」
思考回路はまだ迷子だ。なんならもうすぐショートする。
「分かりません? 順序とか因果の問題ですよ。生葉先輩が僕を好きになった、その結果として大宮先輩と別れる。そうして初めて、意味があるんです」
……私と付き合うという結果は必要ない? ただ私が松隆を好きになる状況が欲しかっただけ? これはいわゆる、弄ばれるというヤツだろうか?
「……松隆。先輩で遊ぶのもいい加減にしなさい」
「遊んでませんよ、ちゃんと本気です」
「本気で策を弄したとかそういうことを言うんじゃないでしょうね」
「違いますよ。本気で先輩が好きですって言ってるんですよ」
…………なに?
まただ。また、言葉が理解できずに脳がフリーズした。唖然とするあまり、時間が止まった気さえした。
松隆はただ、隣に座って、いつものように柔らかく微笑んでいる。……何かの冗談だ。冗談に違いない。そうでなければ、好きの意味が違う。そうだ、きっとそうに違いない。
「好きですよ、先輩」
それなのに、違うといわんばかりに繰り返されて、開いた口が、塞がらなかった。
考えた。もちろん考えた。松隆が私を好きな可能性だって考えた。だって浮気じゃない浮気をするなんて、そんなことに下心なしに協力するヤツがいるはずがない。でも松隆はそれを何度も否定したし、あたかも興味がないかのような口ぶりだった。だから違うんだと思っていたし、そう自分にも言い聞かせていた。
「……な……に、なんの冗談……そう、冗談でしょ、ドッキリで烏間先輩が出てくるとか」
「烏間先輩は僕が生葉先輩を好きだって知ってますけど」
「は!?」
そんなこと聞いてない! いや聞くはずないのだけれど。目を剥く私とは裏腹に、松隆は少しだけ苛立ったように、先輩にしてやられたとでも言いたげに苦虫を噛み潰した。
最初のコメントを投稿しよう!