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だが、それも最初の話。実は結構素直で可愛いただの後輩だと分かったので、いまとなってはサークルで随一に可愛い後輩である。もしかしたら騙されているのかもしれないけれど。
「少なくとも、どこまではセーフでどこからがアウトだなんて、そんなラインを見極めてる時点でくだらないですよ。彼女がイヤって言うならやめればいい」イケメン発言に勢いよく相槌を打とうとして「そのイヤに納得ができないなら別れればいい。それだけのことでしょ」正論に閉口した。
「……つまりイヤを言えない彼女は」
「別れを切りだしてはいかがでしょうか」
「……先輩を正論で殴るのはやめなさい」
ニッコリなんて聞こえてきそうな笑顔に拳をめり込ませたくなった。
「で、件の大宮先輩は? 今日も富野先輩と仲良くやってくるんですかね」
「よくない! 先輩をそうやっていじめるのはよくない! 教わらなかったのかな!」
なんて噂をすれば影、テニスコートの入口には連れだって現れる大宮紘と富野茉莉。テニスコートの端からその2人の様子をガン見する私に、松隆は一層、その意地悪な笑みを深くした。
「そういえば、友達に聞かれたんですよね。富野先輩と大宮先輩って付き合ってるのかって。富野先輩と大宮先輩、いつも一緒に授業受けてますから」
「…………」
「僕ら1回生の中でも、富野先輩は有名なんですよ、経済学部の2回生で一番可愛いって。うちの大学でミスコンがあったらぶっちぎりナンバーワンだろうなって」
「…………」
「あ、もちろん、違うって言っておきましたよ。富野先輩と大宮先輩はただの友達ですし。なにより」
だんまりを決め込む私に、松隆はとどめの一撃を放つべく、一拍溜める。
「一応大宮先輩は生葉先輩の彼氏ですからね」
すくっと私は立ち上がった。気合を入れるように、黒髪のポニーテールを結び直し、テニスコートの金網を背に、座っている松隆を見下ろす。
「……松隆。今日の夜の予定は」
「すみません、今日は予定が合いません。明後日なら空いてますので、飲みに行くなら明後日はいかがでしょう」
「それで結構です。そのまま空けておいてください」
「いいですけど、僕と飲みに行く暇があったら、大宮先輩を叱ってはいかがですか?」
松隆が視線を向ける先では、テニスコートに来たというのにジャージに着替えもせず、部室の前でだらだらと駄弁る2人の姿があった。気付いてはいたけど、それをわざわざ指摘する松隆の性格の悪さが憎い。
「いいから行くよ!」
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