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2日後の夜、大学の近くにある居酒屋とバーの間の子みたいな店にて「で?」と松隆はカクテルジュースのグラス片手に早速愚痴を聞く姿勢をみせてくれた。
「この間は何があったんですか?」
「……何かあったと決めつけるのをやめなさい」
「じゃあ何もないのにあんなサイトを見てたんですか?」
「紘があんまりにも頻繁に沙那と飲みに行くので、ちょっともやもやして『女子と2人で飲みに行くときには一言くらい言ってほしいなー』と言いました。すると後日、沙那に『生葉って束縛とかするタイプなんだね。紘と飲んでるときに、秘密ねって口留めされちゃった』と言われました!」
すぐに白状した私に、松隆は「くっ……」と声を上げて笑いそうになるのを堪えてみせる。
「津川先輩、別れさせ屋みたいですね」
「別れさせ屋ならせめて被害者面くらいさせてほしいなあ!」
津川沙那もまた、私達と同じテニスサークルのメンバーで、かつ、私と同じ法学部だ。
「有り得なくない? なんで沙那本人にその話をするの? でもって『秘密ね』ってなに? 秘密にしろなんて言ってないじゃん! 一言断ってくれてもいいじゃんって言ってるんじゃん! そしてそれを私にわざわざご丁寧に伝える沙那! なにこれ!」
「大宮先輩と津川先輩、同じくらい頭おかしいですよね」
「人の彼氏を捕まえて頭おかしいとかいうんじゃありません」
「でも頭おかしいって思ってるでしょ」
「思うけどそんなこと言ったら余計に沙那にあることないこと言いふらされるだけじゃん!」
沙那を一言で表すならば、“噂好き”。他人の友人関係から色恋沙汰まで、沙那はとにかく情報を集めるのが大好きで、しかもたちの悪いことに、伝えてはいけないことを伝えてはいけない相手に伝えてしまう。紘と2人で飲みに行った際に口留めをされたと私に伝えたのがまさしくそれだ。
「きっと私があそこで怒れば『紘と2人で飲みに行ったら生葉に怒られちゃった』って紘に伝えるんだよ……」
「津川先輩と大宮先輩の仲が良いのが運の尽きですね」
そのとおりだ。お陰様で、私が紘に話したことは沙那に筒抜け、そこからサークル全体に筒抜け状態。他人に言われたくないことは紘に話してはならないと決めた。
「正直、大宮先輩と津川先輩が仲が良いの、結構謎ですよね」言葉のとおり首を捻りながら「津川先輩と仲が良い男って、めちゃくちゃ性格が良いか、流されやすいかのどっちかですけど、大宮先輩ってどちらでもないですよね」
「ツッコミにくい評価はやめなさい。そのとおりだけど」
正直、沙那の性格は良いとは言い難い。頑張っても「悪い子じゃないんだよ」がいいところだ。結果、沙那と仲が良い子は、沙那と仲良くできるくらい性格がいいか、沙那の口から聞く噂話を一緒になって楽しんでしまう、朱に交われば赤といったタイプの子のどちらか。ただ、紘はそのどちらでもない。
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