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「まあ、津川先輩の話はいいです。いつものことですし。ああでも、大宮先輩の話もいつものことですね?」
「なに? 私のこと嫌いなの?」
「まさか。だったらこうやって飲みに付き合ってません」
薄暗い店内で笑顔が輝く。内心なにを考えているかは知らないけれど、松隆が嫌いな人間と好き好んでお喋りをするような、裏表のある人間でないことは知っていた。
「先輩も先輩で、なんで大宮先輩と付き合ってるのかよく分かりませんけどね」
「……なんでってなんで」
「だって、話を聞けば聞くほど甘ったれてますよね。先輩がダメ男専門に見えてくる」
「そんなことないです。あと、先輩を捕まえてダメ男と呼ぶのはやめなさい」
「いやあ、僕もサークルにいるだけだったら全然そんなことは思わなかったんですけど」
松隆はもぐもぐと唐揚げを食べる。そんな姿でさえイケメンになるのだから、美形の力はすごい。
「大宮先輩、わりと典型的なダメ男なんで。それを毎回許してる先輩ってなんなんだろうなあと」
「……別に言うほどダメなわけじゃ」
「あぁ、他の女子と出かけるくらいは言うほどダメなことではないですね」
「……そうだよね。言うほどダメなことじゃないよね。私だって別に『あたし以外の女の子と出かけないで?』なーんて言わないからね。そこまで女の子じゃないからね」
「でもね」と一息置く。煽るように私の言葉を繰り返した松隆の罠にまんまと嵌ったことは、松隆が後輩とは思えないほど腹立たしい煽り顔をしているせいでよく分かった。
「残念ながら他のどんな女と何度も出かけられて平気でいるほど男らしくありません! しかも相手は決まって2人、沙那は彼氏が途切れないモテ女だし、もう1人は経済学部で一番の美女と呼ばれる茉莉! しかも茉莉は性格まで良いし彼氏もいない! そんな女子と授業もサークルも飲み会の席も一緒! しかも飲みに行った日はそれを秘密にする! あーもうっ、腹立つ!」
「なんで別れないんですか?」
「……好きだから」
心の叫びを音声にして表せば、松隆の冷ややかでごもっともなご意見がきたし、更に、私の返答に対するこれまた冷ややかな視線も向けられる。
「女の子ですね」
「松隆、私のこと馬鹿にしてるでしょ」
「してませんよ、半分くらいしか」
「半分してるじゃん!」
ふざけるなよ貴様! と無駄に整った美しいその顔を睨みつけるけれど、松隆はどこ吹く風だ。それどころかグラスを傾けながら「だって典型的なカモじゃないですかそれ」と先輩に向けてとんでもない暴言を吐く。
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