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「鴨」
「カモです。ネギも一緒に調理すればなおのこと美味いことから鴨が葱を背負ってくるなど言われるあの鴨です」
「なにかね、その馬鹿丁寧な説明は。そのくらい知ってます。あれか、私がダメ男を更につけあがらせているとでもいいたいのか」
「だって何やっても許してくれるじゃないですか。僕、わりと引きましたよ、大宮先輩がもう1個のサークルの新歓帰りに死ぬほど酔って、友達の誕生日祝いしてた先輩を電話で呼び出して帰宅させた挙句、先輩の家で寝ゲロしたって話」
……今年の5月の話だ。この話をしたとき、松隆はドン引きしていたし「なんでそのとき別れなかったんですか?」と心底不思議そうに聞いてきた。
「そうそう聞かないクズエピソードですよ」
「……松隆、君はお酒で間違いを犯さないように」
「この顔で『飲めないんです』って困った感じで言えば免除されますから」
「この腹黒王子……」
「あるもの使って何が悪いんですか」
この性格がサークルではバレていないのだから恐ろしい。男を見抜く目に長けた沙那でさえ「松隆くんは顔だけじゃなくて性格も良いよね。ちょっと毒舌なところが逆に胡散臭くなくていい」程度に評する始末だ。
そんな外面良し男くんは「ていうか誤魔化さないでくれません? 結構なクズエピソードですよ、それは」と繰り返す。確かに仲の良い友達の誕生日パーティーを彼氏による「介抱してくれ」という一本の電話で抜ける羽目になったことは恨んだ。
「……でもギャンブル好きでもないし、アル中でもないし、DV男でもないし、決定的な浮気はしてないし」
「いま先輩がしてるの何の話ですか? 人間と猿の区別基準?」
「ギャンブル好きとアル中とDV男と浮気男を迷わず猿呼ばわりする君はイケメンだ! 君は腹黒いけど性格はイケメンだ!」
「ギャンブル好きでなく、アル中でなく、DV男でなく、決定的な浮気をせず、なら文句など言ってはいけないと思ってる先輩、やはり安定の鴨、ご愁傷様です」
「松隆なんてデートの日に眉間にニキビでもできればいいんだ」
「できないんですよね、ニキビ」
「顔面が良い男は肌にまで恵まれてるなんて、世の中は不公平だ」
つるつるもちもちの松隆の肌を睨みつけながら、大して飲めもしないカクテルをあおった。
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