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それから暫く、だらだらとサークルの話やら授業の話やらをして、気付けば時刻は22時を回っていた。
「松隆、まだ何か食べる」
「僕は別に」
「そう。すみませーん、カシオレひとつー」
「えぇ……」
松隆の片手にあるのは、最初から今まで可愛らしいノンアルカクテル。立場が男女逆だ。
「先輩、さっき一杯飲んだでしょ。やめましょうよ」
「飲まずにやってられるか」
「そのセリフ、いつか言ってみたいって言ってましたもんね」
いかんせん私は、普通の人がジュースだと笑うほどアルコール度数の低い酒であってもほんの一口で顔が真っ赤になる。びっくりするほど酒に弱い。それなのに、顔立ちと出身地(四国)はどう考えても酒豪のそれ。普通なら「ギャップ萌え」になっていいのかもしれないが、残念ながらそんなことを言われたことはない。大抵の男子に言われるのは「お前にその設定求めてない」だ。私も求めてない。だってストレス発散方法が人より一つ少ないのだから。
お陰でほんの3口のカシオレでもアルコールが喉を刺激する。ただでさえグラス1杯分の酒を飲み干した後なので頭痛が酷い。こめかみを押さえながらも、カシオレの入ったグラスに口をつける。松隆は心底呆れ顔だ。冷静に考えると、サークルの飲み会では沙那に絡まれ、プライベートの飲みでは私の世話をさせられ、このイケメン様はなんとも不運な立ち位置だ。不運にさせてる私が言うのもなんだけど。
「結構冗談抜きで顔赤いですよ。やめましょう?」
「やだ」
「送り狼になりますよ」
「松隆に限ってそれはない」
「先輩こそ僕のこと舐めてません?」
「だってー、私だってたまには『飲み過ぎたー』って紘に電話したい」
はぁー、と重い溜息を吐く。きっとこの息はアルコール臭いんだろう。酒好きな彼氏のお陰でよく知っている。
「でも、そういう女、うざくない? 知ったこっちゃないわ、飲み過ぎたところでお前の体なんだからどうしようもないわ、みたいな」
「ごもっともですね」
「こういうのが、可愛くないんだろうな」
ぼそりと呟いた。私のプライドは、酔っぱらってもないのに酔っぱらったふりをすることを許さないし、前後不覚になるほど酔っぱらうことさえ許さない。
正直、我ながら、見た目はそんなに悪くないと思うのだ。いつもポニーテールにしている黒い髪は、地味なのかもしれないけれど、一度も染めたことがないお陰で結構綺麗だと思う。二重の目は友達に「それだけで勝ち組」と羨ましがられるし、鼻筋がとおってて「いいなあ、俺は鼻がコンプレックスだから」と男にさえ言われたことがある。中肉中背だけど、多分「細すぎる女子はちょっと」と言う男もいるし、なんなら胸はやや重たいくらい大きいし……、体型にあまり自信はないけれど、マイナス評価がされるほどではない。
それでも、どうにも私には可愛げがない。いまどき自サバ女なんて蔑称があるけれど、自称でもサバサバを気取れるならいいと思う。私は他サバ女だ。みんなが「サバサバしてる」と言うだけで、本当の私の中身は、女々しさを見せることができないちっぽけなプライドでできている。
だから、酔っぱらってもないのに酔っぱらったふりをすることなんて、プライドにかけてできない。それでも、たまには、目に見えて酩酊して、理性のないふりして言いたいことをぶちまけたい──。そんな気持ちでグラスを傾ければ、冷たい手に手首を掴んで止められた。
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