15人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
一希は省吾の全く止まる気配のない手に堪らずコマンドを発してしまった。省吾の動きがピタリと止まり、一希は一瞬で我に返って、省吾を見上げた。
「ごめん! 動いていいから……」
ただ、そこには一希の予想に反して、ニヤリと笑う省吾の顔があった。
「……ここで使われるとは思わなかったわ」
「しょ、省吾……?」
「『ステイ』できたし、後で『ご褒美』くれるんだよな? 俺のDomは」
「え……あ、」
「くれねぇの? こんな我慢してんのに?」
そう言って、ぐいと中心で固くなっているものを太腿に押し付けられ、かぁっと効果音が聞こえてきそうなほど一希の顔が真っ赤に染まっていく。
「あっ、あげるから、ちゃんとあげるから!」
「へぇ、何してくれんだろ。すっげぇ楽しみ」
プレイ中でない時にコマンドを使われたというのに、省吾はどこ吹く風。満面の笑みを浮かべて、自分が外したボタンを鼻歌交じりに留め始めた。
その姿を見て、どこか嵌められたような気がしてならない一希だった。
◇ ◇ ◇
婚姻届を出すために役所に行くと、三月末ということもあり、役所の中は混雑していた。順番待ちの番号を取り、二人並んで長椅子に座る。
省吾はそわそわとしている一希の一回り小さい手をとり、温めるように握る。
「緊張してんの?」
「緊張してるよ。人生の一大イベントだから」
「ふっ、そんなに嬉しい? 俺と結婚するの」
「う、嬉しいに決まってるでしょ。省吾は違うの……?」
不安げな顔で見上げてくる一希に対して、繋いだ手にキュッと力を入れて返した。
「ばーか、嬉しいに決まってんだろ。一希が正式に俺のものになるって考えたら、感慨深いっていうか」
「うん……へへ」
一希はもう一度省吾を見上げて、空いている方の手を伸ばす。そして省吾の首にあるチョーカーに指先でそっと触れた。すると、省吾がふっと笑いつつ目を細める。
「なに可愛いことしてんの」
「か、可愛くないし!」
「はは、一希も少しはDomらしいところでてきたな」
「……うん、そうかも……。着けてくれるの、こんなに幸せなことなんだって、少しびっくりして。所有の証ってちょっと僕には強い言葉だと思ったけど、省吾は僕のものなんだよーって見せびらかす? っていうのかな……それができてすごく満たされてる気がする」
どこかうっとりした様子で一希は長い睫毛で縁取られた瞼を伏せる。
「……俺もおまえのそんな顔が見られて幸せだわ」
Domだと検査結果が出た時、一希は酷い狼狽えようだった。Subだと聞かされた省吾も相当だったが、一希はそれ以上に酷かった。省吾すら一希は確実にSubだと思っていたため、二人共Subか、と思っていたのだ。一希から結果を聞くまでは。
最初のコメントを投稿しよう!