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一希が口調を真似るように返せば、「やっぱ損したー!」と省吾は空に向かってボヤいた。その姿は最近見ていなかったやんちゃなころの省吾のようで、一希の頬が緩む。
「本当にね。もっと素直に考えれば良かった」
「だなー」
「うん……――あ、あのね、僕、省吾のためにDomらしく振る舞えるように頑張ってみようかと思うんだ」
「一希……」
「その、省吾が嫌じゃなければ、だけど」
「……俺もそれノるわ。一希のためなら、頑張れるかも知れねぇし」
「本当に?」
「ホント。ってか、一希を他のSubに取られたくないってのが本心」
「え……」
「だから、一希を俺のDomにしたいわけ。うまく噛み合うかわかんねぇけど、歩み寄りっての? おまえとなら何でも話せるから」
「歩み寄り……うん、省吾とたくさん話したい。嬉しいことも嫌なことも全部」
「そ。んで、合わなかったら二人で仲良く抑制剤飲めばいいだろ」
「省吾……」
「おっし! なら、まずはセーフワード決めるとこからだな」
「うん! 帰ったら先生に報告して、省吾の部屋集合ね」
二つの意味においてパートナーでいたい。省吾も本心ではそう思ってくれていたことを知れば、こみ上げるものがある。一希はこぼれんばかりの笑みを向けた。
省吾が「なぁ」と一希の手を引っ張る。首を傾げながら一歩近づくと、少し腫れぼったくなっていた唇に何かが触れた。掠めるように離れていったものを視線で追う。
「あ……」
唇だ。
そう認識した一希は目を見開いたまま固まり、省吾はしてやったりと口端を上げた。
「顔真っ赤」
と揶揄され、はたと我に返った一希が文句を言おうとしたときには、すでに省吾は駆けだしていた。
「省吾のばかぁー!」
と一希も走り出せば追いかけっこに発展し、施設に着いたのはとっぷりと日が暮れてからのことだった。
◇◇◇◇◇
施設の職員にパートナーになったこと、そしてじき結婚することを告げると、渡されたのはパートナー契約書のテンプレートだった。二人を本当に小さいときから知る母親代わりの職員から「あなた達ならきっと大丈夫」と励ましの言葉も貰い、二人は仲良く横に並んで契約書に向かっていた。
「コマンドは一般的なのを使うとして」
「うん。禁止行為も自分たちで決めるんだ……結構細かい」
一時的なパートナーでは口約束で交わされることがほとんど。しかし結婚するなら契約書として残しておいた方がいいと師からアドバイスされたのだ。
「流石に今すぐこれっての思い付かないし、今はセーフワード埋めるだけで良さそうだな。別に禁止行為書かなくてもいいらしいし、日頃から色々試して柔軟に対応していけばいいんじゃねぇ?」
「僕もそれでいいと思う。セーフワードさえあれば省吾を守れるから」
「へぇ? 言わせるようなこと一希にできんの?」
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