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コマンドに従った後は褒める。それがSubの本能的欲求を満たす行動になる。一希の口からは意識せずとも自然とその言葉が零れた。
「省吾は? 嫌じゃなかった? コマンド」
「嫌じゃないし、なんかすげぇ胸が熱い……やっぱり一希にされるの、全然違うわ。ちょっと自分でも驚いた」
省吾は溜息を吐きながら、一希の肩口に顔を埋めた。Domに尽くして褒められて満たされる。それがSubの行動原理。
Domとしてはまだ赤子のような一希だが、誰よりもその人格を知る省吾は何も恐れていなかった。信頼度の違いがこんなふうに顕れるのかと省吾は初めて味わう充足感に舌を巻いた。
ただ、省吾の物言いに引っかかった一希はふと顔を上げる。
「……待って」
「ん?」
「他の人にコマンドされたことあるの?」
「え……あー……まぁ、ちょっと成り行きで、」
「成り行きって……もしかして、パートナー探してたとか……?」
省吾はやっちまった、と気まずそうな顔をして頬を掻いた。そんな省吾に、一希は目を見開いた後、むっと唇を尖らせる。
「省吾、ちゃんと教えて」
「……わかった。全部話すから」
一希のDomらしい強い独占欲が垣間見えて、省吾の頬が緩んだ。そして一希を抱きしめながら、ポツポツと話しだす。
「半年前ぐらいに軽い禁断症状が出てさ。抑制剤貰いに行ったんだけど、その時紹介されたんだよな」
でも全然ダメだったわ、と省吾は自嘲するように言った。Subの基本姿勢である《ニール》の段階で拒否反応が出たのだ。
通常Subはこの言葉に喜ぶもので、それすらできないなら本能的欲求を満たすことができないため危険だ、と調教師を付けるように提案もされていた。しかし、それこそバッドトリップを起こしそうで、省吾はなんとか抑制剤で今まで凌いできたというわけだ。
「本当参るよな」
「省吾……」
肩口に顔を伏せたままの省吾の淡い色の髪を一希は宥めるように撫でた。
「ごめんね、僕がグズグズしてる間に辛い目に合わせて。もう絶対そんな思いさせないから」
「……ん……一希、なんか急に頼もしすぎねぇ? なんか変なもん食べた?」
「もう! 茶化さない! 僕がせっかく男らしくビシッと言ったのに!」
「ふっ、男らしくって」
省吾は真っ赤な顔をした一希を見てひとしきり笑うと、一希の額にキスを落とした。
「ありがとな。……でもごめん、《ニール》はできねぇかも。他にも使えないコマンドもあるだろうし」
「気にしないの。僕だってコマンド使うのは怖い。従わせたいなんて思わないし。でも省吾が言って欲しいコマンドがあるなら使っていきたい」
「一希もして欲しいのがあれば言えよ。俺だっておまえを満足させてやりたいんだから」
「うん」
「これからゆっくりすり合わせていこうな」
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