11 私がヒロイン!!(ピンク頭の頭の中)

1/1
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ

11 私がヒロイン!!(ピンク頭の頭の中)

小さな頃から何度も同じ夢を見ていたの。 だからね、学園に通えるって分かった時に気づいたの。この世界は私のためにあるんだって。 ※※※ 夢の中の私は体が弱かった。小学校の低学年から入退院を繰り返してたまに学校に行っても仲良しのお友だちなんていないしお客さん扱い。 だって委員会だってグループワークだって明日学校来ないかもしれない子にやらせられないもんね。 そんな私の楽しみはトラウム王国物語を読むこと。そして原作小説から派生したゲームをすること。原作小説は魔王を倒して仲間と建国した物語だったけど、ゲームの世界はその子孫達が通う学園でピンク色した特徴的な髪の美少女主人公として魔王の復活を阻止しつつ結婚相手を見つけるっていう内容で私のお気に入りは王子様。月の光を擬人化したみたいな姿が大好きで性格だって頭脳明晰で穏やかな紳士、将来は後世から賢王と讃えられる王太子。もちろん他のキャラクターも素敵で王子様の親友のキャラとか隠れキャラとか色々みーんな大好きだった。キラキラしてて私のことを愛してくれる優しい男の子達。画面ごしだけど皆と恋に落ちて楽しかった。 何回も何回も遊んでゲームの進め方もすっかり覚えた。すごく難しいハーレムエンドも達成したの。王子様と結婚して他の子は私の愛人になってもらうのよ。でも王子様と結婚するために一番大事なことは彼と一番最初に仲良くなること。王子様のプライドってやつかしら、他の子と先に友達になったりすると絶対婚約者にしてくれないの。男心って難しいわね。 だから、この国が私の夢の中のゲームの世界と同じ国名だって気づいてからちょっと期待してたの。ピンク色の髪なんてパパともママとも違う変わった色だったけど主人公なんだものからかわれても私はこの世界の特別なんだからって思えば平気だったわ。実際はパパは私の本当のパパじゃなかったけど、可愛がってくれたもの血の繋がりだけが家族じゃないじゃない?パパは私のパパだもん。ずっと大好きだよ。それにね私が学園で勉強したいって言ったのを後押ししてくれたのはパパだったの。ママはね私に早くお嫁にいってほしくて幼馴染の子をずっと勧めてきてたの。いやぁよ、私は王子様と結婚してお姫様になるんだもん。それにあの子私の嫌いな子のことずっと好きだし、私好いてくれる人と結婚したいんだもん。だから絶対王子様と他の皆に愛される未来を手に入れるの。そう決めたの。 ハーレムエンドを目指すんだから学園に通い出したら絶対王子様を一番に攻めないといけないわ。一番最初に恋に落ちなきゃいけないのは王子様、絶対なの。婚約者が決まるって時期には眠れなくなるくらい心配したわ。だって婚約者と電撃結婚なんてされたら私と結婚できないじゃない、夢の世界では出会って一ヶ月で電撃婚なんてよくあることだったし。この国では重婚は許されてないんだもの。お妃様か愛人か。立場は二つしかないの。こんなに可愛い私が愛人なんて立場に甘んじるなんて許せないじゃない。幸い私が学園に来るまで王子様の電撃結婚なんて話題は出なくてホッとしたわ。婚約者決定の話が出ないのは妙だと思ったけど、まあ多少の違いはあるのかしら、ゲームって作り物だものね。私が王子様と出会ったら恋に落ちるのは現実で確定した未来だけど。 そう思って学園に入学した初日に私が目にしたのはどこにでもいる平凡で小柄な貴族の男子がアーノルトのお気に入りとして傍若無人な振る舞いをしている光景だった。自分の目を疑ったわ。だってゲームの中では見たことのない子だったし。取り立てて特徴のない色味、貴族だったらよくある肩までの金髪、ひょろりと軽そうな体躯。小さい頃から栄養に富んだ食事で育てられる上級貴族の子達と違うのが一目で分かったわ。私と恋してた子達は皆上級貴族だもの、見目好し性格良し、こんなモブみたいな子は知らない。あ、そうかこの男子はたまたまアーノルトと仲良しなのね。私が学園に来るまでのつなぎっていうか、私が学園に来るまでストーリーがはじまらないんだものね。そうか、そうか、いわゆるモブの子が私が入る立ち位置にいるのね。じゃあ私が学園に入ってきたんだものこの子はきっと明日からいなくなるのよね。うん、じゃあ今日は許してあげる。入学初日で疲れたから。明日から私とアーノルトのラブラブ恋物語が始まるんだもん。 (たーのしみ♪) そう思っていたのに、次の日になってもその次の日になってもモブはアーノルトの側から離れない。私が貧血でくらりとしたところを助けてくれるはずのランチタイム。毎日アーノルトの姿を探して近づこうとしたのに。アーノルトは私のことなんて気づかないでモブと見つめあってる。すごく楽しそう。やだ、そこは私の場所なのに。 なのに、なんでお膝にモブが座ってるの? なんであーんってご飯食べさせてもらって。きゃっきゃうふふってモブなのに。 なんで周りの皆は黙って見てるの?止めないの?無礼千万じゃないの、サイラーあんた隣にいるじゃない?婚約者のエリカが遠くから能面みたいな顔して見てるわよ!! 学園に通い出して半年たっても私はまだ王子と口を聞くことすら出来てなかった。王子に近づこうとすると必ず邪魔が入るのよね。変だわ。本当ならもう婚約者のエリカから階段から突き落とされて大怪我する時期なのに。その事で彼女が修道院に行くことになるのよね。でも夢の中でいつも苦しい思いをしてたから王子様と婚約するためとはいえ階段から落ちるのは本当は嫌なんだけど。主人公だから仕方ないのかな。超えなきゃいけない試練ってやつ? でもねエリカは王子の婚約者候補であってまだ正式な婚約者ではないの。ゲームの中で皆に優しい王子様だった彼はただただモブと仲良くして女性達には近寄ろうとしない。学園で私に意地悪をしてくる子なんていないし、王都の側でおかしな魔物が湧く森もない。ゲームと違うずれが沢山。 (どうして?) なにより私の才能を見出だして大事なアイテムをくれる魔法使いに出会ってない。 この世界はほんとにゲームの世界?ぼんやりとした不安を覚えだした時ゲームと同じ出来事が起きた。でもそれは私じゃなくてモブに。 私は焦った。エリカがモブを階段から突き落としたんだもの。これってエリカの恋のライバルがモブで確定したってこと?階段から落ちるのは怖いし痛いだろうから嫌だったんだけど、まさかモブが突き落とされるなんて。彼女が修道院に送られる断罪の場で王子が主人公を新しい婚約者としてお披露目するのに突き落とされてない私が断罪の場に居て婚約者として紹介されることってある? 嫌な予感がする。モブを王子から引き離してエリカを修道院に放り込まないと。ここは私のための世界なのに、お姫様になれないままになっちゃう。いいえ、大丈夫よ。まだ間に合う。あのモブが居なくなればすぐにあの場所はわたしのものになるわ。それに良く考えてみたら痛い思いをしなくてよかったんだもの、神様が私の願いを聞いてくれたんじゃないかな?だから今まで王子と知り合いになれなかったんだ!きっとそう!! ああ、でもこのまま王子と知り合いになるのを優先してたら他の男子と恋に落ちる時間が足りないんじゃない?どうしよう。魔王だってそのうち復活してくるよ!愛の力でやっつけないといけないのに!! モブ、とっとと王子の隣を私に渡しなさい!!モブに忠告してあげたのにちっとも人の話を聞かない!エリカもさっさと修道院に行きなさいよ。しょうがないから怒らせて私に暴力の一つもふるわせてやる。ちょっとなんで無視するの?聞きなさいよ!! もう知らないわよ! 魔王に皆殺されちゃうんだからー!! ううん、ダメよ。諦めたら。ここは私の世界だもの。 私が皆を助けなきゃ。 あのモブには特別な力なんてないんだもの。 まずはやっぱりアーノルトとの出会いのために運命を仕切り直さないと。そうすればきっと運命の歯車がきちんと噛み合うわ。 やっぱり早急にモブを退場させないと。 世界を救うためだもの。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!