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第22話 玲奈へ
怜奈へ
最後にもう一度あなたに会えて、一緒に過ごした時間は私の一番の宝物です。もう十分すぎるくらい幸せ。だからもう何も思い残すことはありません。
ずっと、私はどうして生まれたんだろう、って思っていました。
生物学的に母親であるあの女からは、親らしいことなんて何一つしてもらえなかったし、私を地獄に突き落としたのは、血の繋がっている父親だったから。
あの女が、あなたを生んで、私がお世話をするようになってからは、短い間だったけど幸せでした。
小さな指でわたしの指をぎゅっ、ってしてくれた時、こんなにも愛しい存在が世の中にあることを初めて知りました。
あいつが私を、知らないおやじに売った時だって我慢できました。
目を閉じて、あなたの笑った顔だけを思い浮かべて、終わるのを待てばいい。
逃げたかったけれど、逃げたら、あなたを誰も見てくれる人がいなくなる。
あのおぞましい時間も、あなたの笑顔をずっと思い浮かべたら、なんでもないことだって思うことができました。
でもあの日、飲んだくれたあの女とあいつが話してるのを聞いてしまった。
あいつは赤ん坊が邪魔だって。
そうしたら、あの女は、母親のくせに、「3、4年もしたら、この子も金になるんだから」って。
だから決めました。
この地獄をあなたになんて、絶対にそんなことさせない。
私を買った人の中にお医者さんがいました。動物のお医者さんでしたが、私は甘えたふりをして、睡眠薬をたくさんもらいました。
それをあいつらに飲ませて、ガス栓を開きました。
それはとても上手く行って、私は初めて自由を手に入れることができました。
でも、学校も満足に行っていない私ができることはそんなにはなくて、あいつらから逃げ出したはずなのに、結局同じことを繰り返しただけでした。
生きる理由を見つけられなくて、もう、終わりにしようと思った時、あなたを見つけた。
誰かが撮ったSNSの写真に映り込んだ、あなたの姿。
耳のすぐ下にある3つ並んだホクロは、間違いなく、私の大切な妹のもの。
私の、たったひとり大切な家族。
ほんの少しだけ、あなたと過ごしたら、目の前から消えるつもりでいました。
あなたが幸せであればそれでいい。
あなたのことを調べるうちに、あなたに影を落とす存在を知ってしまった。
どうせこの手は既に汚れているのだから同じこと。
あなたを傷つける人間は絶対に許さない。
私は既に実の両親を殺している。
この手を汚すことなど何でもない。
罪は全て私が背負う。
さようなら、玲奈。
私のことは早く忘れてください。
この手紙は、私と一緒に消えてなくなるから、あなたが目にすることはないでしょう。
あなたの姉より
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