第11話 破滅へ

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第11話 破滅へ

久しぶりに『会う』怜奈はいつもと様子が違っていた。 最近の玲奈は、バイト先の本屋でも少しぼんやりしていることが多いように見えた。 きっと、もうすぐ相談に乗って欲しいと言われるはず。 そんな沙耶の予想通り、玲奈からメッセージが届いた。 沙耶は駅の近くのショットバーで、玲奈と待ち合わせをした。 「お仕事忙しいんですか? 最近本屋へも寄らないですよね?」 「仕事の前にもいろいろあったりしてね」 怜奈は何か聞きにくいことがあるようだった。 「あの、沙耶さんってその……夜のお仕事って言ってましたよね?」 「ええ」 「こんなこと聞くの失礼なのはわかってるんですけど……」 「なあに?」 「お、お客さんと、その……あ、朝を迎えたりとか……そういうの……」 「お客と寝ることがあるかってこと?」 「…はい」 「あるよ」 「それは、好きじゃない人でも、ってことですか?」 「そうね」 「それが、す、すごく嫌な人でも?」 「そうね」 「そんな時はどうしてるんですか?」 「大切なものを思い浮かべて終わるのを待つ」 「そうなんですね……」 「怜奈、こんなこと、理由があって聞いてるんだよね? ちゃんと教えて」 怜奈は泣き始めてしまった。 しばらくの間、怜奈が泣き止むのを沙耶は黙って待った。 「ごめんなさい、こんなの失礼でした」 「そう思うんだったら全部話して。わたしは怜奈の質問にちゃんと答えたよ?」 「わたし、前に、本屋の本社の嫌なやつに伝票の書き直しさせられたって話しましたよね?」 「うん」 「あの書き直した伝票と、元の伝票、両方発注がかかってて、しかもなんでだかゼロがたされてたりしたから、とんでもない量の本が納品されちゃったんです。わたし、元の伝票はきちんとあいつに渡したし、ゼロの数だって間違いがないよう確認しました。それなのに……それであいつが、店長に全部責任をとって辞めてもらうって。わたしのせいで店長がクビとかそんなのだめだと思って、何でもするから店長をクビにしないで、って頼んだんです」 「それで?」 「『君次第でなんとかしてあげられないこともない。この件についてはホテルでゆっくり話そう』って。『大人だからこの意味わかるよね?』って言われました」 「店長には言ったの?」 「言いません! 言ったら絶対に『自分はクビになってもいい』って言われます」 「それで行くの?」 「こんなのなんでもないことです。初めてじゃないし。一回だけ、たった一回だけ我慢すればいいから……」 「そう思おうとしてるの?」 「軽蔑しますか?」 「怜奈はわたしのこと軽蔑してる?」 「してません!」 「じゃあ、わたしも同じ」 (バカな怜奈) 「いつ、会うの?」 「あ、明後日の夜」 「そう」 「ちょうど父と母が旅行でいないからその日に。家に帰って……両親の顔を真っすぐに見る勇気が出ないと思ったから……」 (そういう奴はね、一度でも体を許したら、何度でも、底なしのように要求が止まらなくなるのよ。一回きりなわけないじゃない) 沙耶はそんなことを思いながらも、玲奈に対して優しく微笑んだ。 「何時にどこで会うの?」 「19時にエクリルホテルの23Fのラウンジで」 「じゃあ、18時30分にホテルの前にある歩道橋にいて。行くから」 「思いとどまらせようとしても無駄ですよ?」 「とめない」 「え?」 「ただ、見送ってあげる」 「あ……はい」 怜奈が微笑んだ。
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