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第13話 ほころび
あけぼの書店の店長である古賀が、病院の待合室で怜奈を待っている間も、頭から離れなかったのは、一瞬だけ目が合った女のことだった。
まわりが怜奈に向いているにも関わらず、女は立ち去って行った。
古賀は、怜奈が女を「沙耶さん」と呼んでいるのを聞いたことがある。
2人は確かに知り合いのはずだった。
それなのに、なぜ、知り合いが階段から落ちたというのにそのまま行ってしまったのか?
それとも見間違いだったのか?
「店長?」
古賀が見上げた先に怜奈が立っていた。
「川島さん、怪我は?」
「見ての通りです。足首を捻挫しちゃっただけで大丈夫です」
「良かった。ご両親に来てもらう?」
「いえ。父も母も旅行に行っていて明後日まで帰って来ないんです」
「あ、じゃあ、連絡だけでも」
「なんとか歩けるので、せっかく楽しんでるところを邪魔したくないから、帰ってきたら言います」
「そうか。だったら家まで送るよ」
「そんな、ご迷惑かけられません。病院まで付き添っていただいてこれ以上は……」
「いいよ、迷惑なんかじゃない。暇だから」
歩きにくそうな怜奈を支えるために腰に手をまわすと、怜奈が驚いた顔で見上げた。
「あ、ごめん、つい」
「いえ、ありがといございます」
古賀はどうにもバツが悪くなってしまい、タクシーの中では終始無言になってしまった。
怜奈も敢えて話しかけはしなかった。
怜奈の家はタクシーを降りてから、細い道を少し上がり、更に途中から階段となった私道を上がったところにあった。
「これじゃあ一人では無理かな。家の前まで送って行くよ」
「お願いします」
怜奈は断らなかった。
実際、階段部分まで近づくと、踏み面が狭いせいか、怪我をしていなくても歩きにくい。古賀は時折つまずきそうになる怜奈を支えながら玄関に着いた。
「じゃあここで」
「あの……お茶でも……」
「女の子が一人の家に入るわけにはいかないから」
そう言って怜奈を背に歩き始めた時、泣きそうな声で怜奈が言った。
「わたし、殺されるかもしれません」
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